今日までは生きてこられたけど、もう、限界だ。こんな感情を抱いたまま寿命を迎えるまで過ごすなんて御免だ。
テレビやラジオでは自殺についてよく、「残された人間が悲しむ」と口を揃えて言うけれど、そんなの知ったことではない。
死んで悲しむくらい大切なら、死なせないよう全力で愛せば良かったのにと思う。

本当に、自分が死んだ後のことなんて、知ったことではない。
自分以外の人間の気持ちなんてどうでもいい。配慮するだけ無駄で、自分の得にはならない。

親より先に死ぬことは親を悲しませる最大の親不孝だ、という考えはよく聞くが、私は寧ろ、自分が死ぬことで親が苦しめば良いと思ってる。

私は、親というものは何がなんでも我が子を愛し、己よりも我が子を優先し、我が子が幸福を実感出来るよう努める義務があると考えている。
産んだからには我が子を愛し、真っ当な人間に育て上げる責任があるのだ。

テレビや小説に登場する優しくてあたたかい両親は、心から自分の子を大切に考え、愛情をたっぷり注ぐ。
けれど私の両親は、一度だって私を褒めたことはない。
何をやっても頑張っても、頭を撫でてくれなかったし、抱き締めてくれなかったし、愛情を感じられるような行為は何もされなかった。

父は昔、独身を謳歌していたが、自分の母親からいつまでも独り身であることを心配され続けたから仕方なく結婚したようだ。
母は、父が金持ちだと思ったから近づいたらしい。元々浪費癖があって、結婚後、コツコツ貯めた自分の蓄えがたった数年で底をついたと父から聞いたことがある。
父は誰かに恋をした経験は一度もなく、周囲に流されるまま結婚し、子をもうけたらしい。
父は受験でも就活でも仕事でも、ほとんど苦労を感じることなく要領良く人生を送っているようで、私の苦労や苦悩を聞いても理解出来ないようだった。
私がうつ病になっても、「気の持ちようだ」と言っていた。
気持ちでなんとかなるなら、そもそもうつ病になどならないだろうに、あの人は根本から理解出来ていないのだ。

母は下戸のくせに酒飲みで、毎日ワインボトルを一本空け、家族に絡むところがあった。こちらが嫌がったり諫めたりすれば、機嫌を損ねて部屋にこもってしまう。
答える価値がないレベルのくだらない質問や冗談を言うことがよくあり、無視しても絡み続けるところがとても面倒で煩わしかった。
母は、親は絶対に子供より上だと考えているらしく、母の意見が間違っていた際に私が異論を唱えれば、私の意見を全面否定して自分の意見を無理やり押しつける。
どれだけこちらが論理的に意見を述べても、母は絶対に受け入れない。
仕事だったり趣味のダンスだったりでほとんど家にいなくて、母と一言も話すことなく1日が終わることは珍しくなかった。
ほとんど家にいないのに、一丁前に家事や生活に口出しし、母親ぶる。

私は自分の両親が嫌いだ。なぜあんな両親のもとに生まれてしまったのだろうと、己の出生を呪った。
父は独身のままでいた方が気楽で幸せだったろうし、母は精神的に幼いから親には向いていない。
映画でも日常でも、優しくて穏やかであたたかい家庭を見ると、羨ましくて妬ましくて、胸が苦しくなる。

だからこれは、復讐なのだ。
私が自ら死ぬことで、少しでもあの両親が苦しめばいい。後悔すればいい。

「……愛されたかったな。」

誰に届くわけでもない涙を流しながら、私は屋上の角から跳んだ。
不幸をにぎりしめて