あの一件以来、カノはずっと眠り続けていた。
状態は毎日、日に何回か定期的に確認がなされ、とりあえずは安定しているものの、経過の確認を行なっている医師や魔導士、とりわけヤムライハが心配している。

状態は安定していると言ったが、不思議なことに、日が経つ毎にカノの体が少しずつ小さくなっており、今の見た目は7〜8歳くらいの幼い女の子だ。
一体何が原因でこうなったのか。
こんな現象が起こり得るものなのか。
一部の研究熱心な魔導士たちはそんな神秘に心奪われ、事あるごとにカノの元へ訪れては何かしらのデータを取ろうとするため、いつも医師が渋い顔で追い返すのが、ここ数日の日常である。

「この不思議な現象の情報を得るためにも少しだけ、ほんの数滴でもいいから血液を採取出来ないものかしら……。あああ早く目を覚ましてくれないかなぁ〜! そしたら本人の許可を得て堂々と血液貰うのになぁ〜!」
「あっ! ちょっとヤムライハ様!! 仮にも彼女は患者なんですよ!? 実験ならよそでやってもらえませんか!」

……ヤムライハもまた、心奪われた魔導士の一人である。

「…………」

医師とヤムライハが揉めている最中、少女の目が、ゆっくりと開く。
もぞもぞと上半身を起こすと、少し驚いたように、大きな目を更に大きくさせながら、医師とヤムライハを見つめる。

「カノ!!」

天才魔導士は素早く医師を振り切ると、少女の元へ駆け寄る。

「良かった……あなた、もう3週間もずっと眠っていたのよ?」
「……? お姉さん、誰ですか?」

……カノは、ヤムライハのことを覚えていなかった。


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不安げな表情で、探るように見つめる少女・カノは今、ジャーファルの膝上に乗せられている。

「引きこもったり暴走したり、チビになったり……。一体何がどうなってやがんだ?」
「っ……!」

怪訝な顔つきで手を伸ばしてきたシャルルカンに、カノは反射的にジャーファルにしがみつく。

「こらシャルルカン、怖がってるでしょう。大丈夫ですよカノさん。ここにいる誰が何をしようとしても、私が守ります」
「あ、ありがとうございます……?」
「ちゃんと御礼が言えて偉いですね。お菓子をあげましょう」
「待て待てジャーファルくん、待ちなさい」

頭を撫で、袖に手を突っ込んで菓子を手渡す《シンドリアの母》に、すかさず国王からのツッコミが入る。

「お前は子供が好きだし、カノが可愛いのはわかるが…………お前ばかりずるいぞ」

さあこっちに渡しなさい、と両手を伸ばすシンドバッド王に、今度は他の八人将が反応する。

「あっ、だったら私にも抱っこさせて下さいよ! カノと一番仲良しなのは私なんですから!」
「いやいや馬鹿だろ魔法オタク! 綺麗さっぱり忘れられてたくせして何言ってやがんだよ!」
「なっ…なんですってぇぇええ!?」

ヤムライハとシャルルカンがいつもの喧嘩を始めたところで、ピスティはジャーファルとカノを交互に見つめる。

「……なんかこうして見ると、ジャーファルさんとカノちゃんって、まるで親子か兄妹みたいですね!」
「え?」
「だっておんなじように髪が白くて、色白で……。瞳の色以外は見た目の特徴がほぼ一緒じゃないですか!」

ジャーファルは、膝上の少女を見る。少女もジャーファルを見つめる。

「…………養いたい!!」

ひしっと抱き締めデレデレな様子の政務官を見た面々は、あーこりゃもう駄目だと遠い目をした。
ジャーファルから力強く抱き締められながら、カノは嬉しそうに頬を染め、幸せそうな顔を見せていた。
魔法に罹る