二人で分けた、トウモロコシ(山姥切)

蝉たちが激しく鳴いている。審神者のいる執務室は空調が整っているので、よく畑当番の男士が休憩をしに訪れることが多い。

私は、審神者の職務と並行して、この部屋に涼みにやってくる彼らにお茶を出したりもしていた。本日も畑当番をしていた加州や信濃、前田が訪れた。

寒い時は洋服を着込めば良いが、暑い夏はどうしようもならない。全裸で過ごせばお縄についてしまうことは確実だろう。この本丸には私以外の女性はいないので、その心配はないが。

ひぐらしが鳴く時間になり、本日の分の仕事も終わった。軽く体を伸ばしたりストレッチをしていると、見慣れた布がこちらに出現した。山姥切国広だ。

「主、今いいか?」
「大丈夫だよ。何?」
「休憩をするように言ってくれと加州から頼まれた」
「珍しいな」

初期刀の彼のお小言を貰うのは珍しいことではない。他の加州よりもややクールで冷静。また、私が不摂生をしていれば、いの一番に気づいて怒る。心配してくれるのは嬉しいが、まるで私の兄のようだった。

「飲み物を持ってきた」
「ありがとう、山姥切」
「礼を言われるようなことではない」

山姥切は麦茶の入ったグラスといくつかのお菓子を置くと、また来た道を帰ろうとしていた。

「ちょっと待って、山姥切」
「何だ。何か他のやつに言伝でもあるのか」
「いや、違うんだよ。一緒に休憩でもと思って呼び止めた」

私の言葉に、山姥切はやや眉を下げた。

「俺以外にも主と共に休憩したいという輩がいるだろう?」
「山姥切も、この暑い中働いてくれてるでしょ。それだったら、私と一緒に休憩した方がいい」

半ば強制的に促せば、彼は少し考えてから了承した。

「分かった。どこに座ればいい」
「ここ座って」

私の近くにある椅子を引き寄せ、座るように促した。そして、そばにある紙コップを示し、彼の分を抜き取った。

「これ使って」
「分かった」
「みんな水分しっかり補給してる?」
「ああ。だが、三日月が水分を取らないときがあったから、燭台切と一期が頑張って飲ませていた」
「三日月さんは相変わらずだな……」

三日月宗近は、どうも水分をとることをするのを忘れがちなため、私も少し頭を悩ませていた。水を飲まずとも平気だと言って、たびたび熱中症にちかいものにかかるので、心配である。

「そうだ。山姥切。これ食べない?」
「それどうしたんだ」

私が山姥切に見せたのは、トウモロコシだ。黄色く粒がよく揃っている。ツヤツヤとしていて、いかにも食欲を刺激させる黄色。

「ちょっと前に夜食としてくすねてきたんだ」
「主……」

呆れるように言われてしまったが、腹が空いていて見つけたものがこれだったのだから仕方ない。加州にバレたらめちゃくちゃ怖いが。

「夕食当番に怒られるぞ」
「今日誰だったっけ」
「一期と堀川だ。主が任命したんじゃないか」
「そうだった。あの二人、お菓子を食べてると叱るからなぁ」

夕食が食べられなくなってしまうのはいけないが、ここにあるトウモロコシはひどく美味しそうなのがいけない。まるで「私を食べて?」と言っているようだ。

「あのさ、山姥切。これ半分こしない?」
「…夕食が食えなくなるぞ」
「半分こしようよ。私たちの秘密にすればいいんだし!」

そう付け加えれば、山姥切は珍しい表情になった。少し髪をかき、ため息を吐いた。

「……さっさと食うぞ」
「さすが山姥切!よくわかってる〜」

茶化すように言えば、山姥切は眉をひそめた。


「それで調理法は」
「トウモロコシバター」
「匂いでバレないか?」
「換気扇をめっちゃ回すし大丈夫、大丈夫」

水が沸騰したのち、すばやくトウモロコシを入れ、ゆでていく。

「やはり青物のにおいは苦手だ」
「少ししちゃうのは仕方がないよ。ああ、ゆであがった」

鍋から取り出したトウモロコシに、ミニ冷蔵庫に入れてあった調味料をつけていただいた。

「うん!美味しい。我ながらなかなかの湯で加減」
「主うまいな」
「おっ。山姥切が褒めてくれるなんて、珍しいね」

にやりと私が笑うと、彼の表情が、布で遮られてしまった。

「早く食べ終えるぞ」
「ん。了解」



このあと、換気扇が意味をなさなかったためか、鯰尾に気が付かれてしまったので、改めて茹でる羽目になり、食事当番たちにばれてしまった。山姥切は、トウモロコシバターが気に入ったようで、近侍担当の日には、これを食べる機会が増えた。