『んぅーっ!』


ぐぐっと背伸びをし、カバンを掴む。終わった終わった疲れた。いやそこまで疲れたわけじゃあないが……。

この生活にも少しだけど慣れてきた。やっぱり最初は違和感だったが、平和でとても明るい、良いクラス。まあ…暗殺をする教室なのを除けば、だが。

カエデに別れを告げ廊下に出たとこで気づいた。烏間に呼ばれてるんだった…思い出してよかった。クルリと方向を変え職員室の方へ向かう。


目的地へ近づけば、ドア付近に見覚えのある姿。中で何か起こっているのか、真剣な顔で凝視していた。


『やっほー渚、どうしたっ、んぐっ』


声をかけるや否や、即座に口を手のひらで塞がれ、自分の口元に人差し指を置いた。いわゆる静かに…ってことだ。そしてそのまま左側を指す。

指示通りに中を覗くと、見知った先生3名に見知らぬ毅然とした男が1名。なんだか、ただならぬ空気がココからでも伝わってくる。


「成績底辺の生徒が一般生徒に逆らう事……。それは私の方針では許されない。以後厳しく慎むよう伝えて下さい」

『………』


椚ヶ丘中学の理事長…?なーんでそんなおエライ様が、わざわざこんなところまで?


「殺せんせー」


ふわりと理事長は殺せんせーに向かって何かを投げた。それはなんの変哲もない、ただの知恵の輪で、


「1秒以内に解いて下さいッ」

「え、いきなりッ…」


理事長の言葉だ。殺せんせーが断るわけもなく、焦りながら触手は見えないほどのスピードで、知恵の輪を解こうと動いている。

その結果は……知恵の輪に弄ばれる殺せんせーの姿。


「……噂通りスピードはすごいですね。確かにこれなら…どんな暗殺だってかわせそうだ。
でもね殺せんせーこの世の中には…スピードで解決出来ない問題もあるんですよ。では私はこの辺で」


ふーん、なるほどな……。成績底辺、つまりはこの校舎の子達で、一般生徒があのバカデカイ本校舎の生徒達。

途中からは話に興味を失い、壁にもたれ話だけを聞いていた。すぐ隣からガララッと音が聞こえると共に理事長が出て来る。

当然、私達の姿は彼の目に入るだろう。腕を組んだまま、理事長へと視線を投げる。


「やあ!中間テスト期待してるよ頑張りなさい!……君が最近転入した姫龍 遊乃さんだね?君も頑張りなさい」


やけに、存在感のある男だ。気に食わない…まるで鉄の仮面を被ったような表情に声色。うん、気に食わない。

…ふと、横目で渚を見れば、胸を抑え"絶望"まさにそんな表情を浮かべていた。


『……渚』


ふわりと両手で彼の頬を包む。おでこをくっつけ、なるべく安心させるように言ってやる。


『なんて顔してるの。渚は渚よ?大丈夫。大丈夫だからそんな顔しないで。見たくないわ。
ねぇ、このあと暇?甘いものが食べたくなったの付き合ってよ!』


渚の腕を掴んで、理事長とは逆方向へ私達は歩いて行く。あ、烏間…まぁいいか。後でメール入れとこう。今は、それどころじゃないし、説明したら分かってくれるだろう。


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