渚と私の目の前には、少し小洒落たケーキ専門の喫茶店。ひっそりと開店してるこの店は、あまり知られていないだろう。私もたまたま見つけたくらいだ。
『ここ、私のオススメなの!ケーキも甘すぎなくてドリンクも豊富なのよね。ほら、入るよ渚』
まだ暗い顔をしている渚の腕を引き、チリンと音を立てる扉を開く。ウェイトレスに案内された席に座り、メニューを渡す。その中でもオススメなのを何個か伝え、私も選ぼうとメニューに目線を向けた。
結局、私はいつもので渚は私が選んだオススメのケーキ。それに飲み物を付ける。
「ありがとう遊乃さん」
『どういたしまして。この店、友達と来たの初めてなの。いつも1人で来てたから、1人も好きだけどやっぱり誰か居ると違うわね』
「…そうなんだ」
『えぇ、そもそも友達って存在が居なかったからね。本当に新鮮。生まれ変わったみたい。
あ、きたきた!ありがとうございます!ほら渚食べてみて!このケーキ本当に美味しいの』
1口サイズに自分のケーキを切って、渚の口元に持っていく。最初は驚き遠慮していた渚だが「早く」そう急かすと顔を赤くしながらも、恐る恐る食べてくれた。
「…あ、すごく美味しい……!」
『でしょう?この店のケーキは絶品よ。今度また皆誘って来ましょうよ』
やっと笑顔になってくれた渚を見て嬉しくなり私もケーキを食べる。ほんの少しの間、沈黙が続き渚がそれを破った。
「…ねぇ、遊乃さん。どう?学校生活は」
遠慮がちに眉毛を下げ、渚はそう訪ねた。
『良い意味で驚かされた。すごく楽しいもの!現役の頃に通いたかった』
「そう言えば、なんで中学通えなかったの?…あっ、言いたくなければいいんだ!」
『…ふふ、私の家は暗殺家業でね、小学校までは通ってたの。でもそれ以降は暗殺のことだけを教わって、中学校は行かせてもらえなかった。
その代わりに家庭教師…みたいなもので、勉強は教えられてたわ』
「…そっか、そうだったんだね。行きたいとは思わなかった?」
『そりゃ思ったわよ。でもすぐにそんな気持ち忘れた。だから私はあのまま人生を終わるんだと思ってた。
けど烏間が仕事とはいえ、チャンスを持ってきてくれた。もちろん最初は断ったけどね。
……渚。渚なら大丈夫だよきっと。何が大丈夫なんだって聞かれたら、上手く言えないけど大丈夫よ。私が保証する。それにあの先生がついてるんだから』
「うん…うん、そうだね……そうだよね。ありがとう遊乃さん」
あぁ、大丈夫そうだ。いつもの可愛い渚の笑顔だ。私も安心して笑ってみせた。そのあとは他愛もない話をして1日を終えた。
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