「……遊乃、ちゃん」

『おー、カルマ。無事でなにより、助けに来た時かっこよかっ、……』


私の言葉が途中で途切れた理由は簡単。カルマの手が頬に伸びてきたからだ。

唇の端あたりを親指で、割れ物を扱うような手つきで優しくなぞられる。ソレを見る目は反対に険しかった。…この傷に対して、怒ってくれているのだろうか。


「あいつにやられたの?コレ」


アイツ、とはわざわざカルマが標的を変えてまで殴ったリーダー格の男のことだろう…嘘をついたところで、すぐにバレる。他にケガする場面など無かったし…髪の毛を左の耳にかけ、そうなるなと、答える。

別にこれくらい大丈夫だ、と言ったところでカルマの両目が見開かれた。


目線の先は私の"首筋"……あ…あぁー……忘れてた。すっかり忘れてた。


『チッ…汚ねえもんつけやがって』


力任せに袖口でゴシゴシと何度も拭う。そうしたことで消えるわけでも薄れるわけでもないが、気持ち的にはすずめの涙程でも楽になる。


だが今度は私が目を見開く番だった。


『…ッ!!カルマ…!?…っ〜〜!』


目の端に映る"赤色"それは他の何物でもなく、赤色の髪の毛。カルマの髪の毛の色だった。
力任せに拭っていた腕を捕まれたまま、ツーっと舌を這わされ、ソレがある場所で舌が止まり、軽く甘噛みされた。


『ちょ、…と』


押し返そうとするもう片方の腕を捕まれ、耳元でじっとしてて、などと言われる。オイマテ、なんでこうなったんだよ!!

大人しくなったのを良いことにチクリ、とまた同じような痛みが同じところに感じる……髪の毛、結えないな。

1度離れたカルマは、私の首元を確認すると満足そうに笑ったがすぐに不満そうな表情になり、私を抱きしめた。


『…カルマ、さっきから変よ……どうしたの』


ポンポンと優しく背中を叩くが、言葉は返ってこず代わりに後頭部をゆっくりと撫でられた。


「俺が、っ……あー、んや…ココ、大丈夫?もう痛くねぇの?」

『…ん、平気よ。ありがとう』

「あんまり無茶、しないでよね」


一瞬だけ頬を優しく撫で、すぐにカルマは行ってしまった。変に言葉を遮り、気にはなるが言いたくないのなら仕方がない。

次からは気をつけますと、心に誓って少し赤くなってるであろう頬を扇ぎながら、私もカルマのあとに続いた。


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