『ふー……』


水音を立てながら熱い湯船につかり、深く息を吐いた。浮かぶ髪を一纏めに結び、手摺に頭を預けそっと目を閉じる。疲れが霧散すると同時に今日起きた事が脳裏に横切っては、自分の未熟さに嫌気が差すものだ。


前髪をかきあげ、充分に体が温まれば湯船から上がる。どうにも今はゆっくりとつかる気分には到底なれやしなかった。


髪を拭きながら、のれんを潜ると、何やら隣の男子風呂の前に集まる渚達が居た。私が出てきたことにも気づいておらず、声をかける。


『よっ、渚。中村さん達も男子風呂の前で集まっちゃって……覗き?』


私の突然の登場に驚いたのか揃いも揃って皆、肩を揺らし勢い良くこちらを振り向いた。


「遊乃さん!…そう、覗きらしいよ」


あははと苦笑いしている渚の隣では、覗きはオレらの仕事だろ?と驚く岡島君。なんだか面白そうなので、一緒に脱衣所をのぞき込む。

そこにかけてあった服は……


『あぁ…うん…なるほどね……』


そう、殺せんせーの服だった。この時点で展開の予想はついたので、一足先に部屋に戻ることにした。


何故か物凄く残念そうにしていた岡島君は、見なかったことにしようそうしよう…。


◇◇◇


大部屋のふすまを開けると、そこには1人でビールを飲んでる美女…もといイリーナの姿があった。


『あれ、イリーナ1人なんて珍しい。……ってそういえば授業以外で話すの初めてだね』


隣に腰掛け一本貰ってもいい?とたずねると好きにしなさい、と返事が来たので遠慮なくいただく。


プシュッと音が響き、喉に冷たい感触が流れ込む。


『はぁっ!…うまー、風呂上がりのビールはいいもんだね』

「……大変だったみたいね。」


イリーナの言葉を聞きながら、無言でタバコを取り出し火をつける。ふぅーっと煙と一緒に息を吐き、そこでやっとまあね…と答えた。


『……ホント、油断したよ。私が居ながら。烏間にもさっき怒られたとこ』


意識を失う直前。あの呆然としたカルマの姿を思い出し1人舌打ちをする。

本当だったら拐われる前に、あんなガキ共、瞬殺に出来たはずなのだ。いや、出来なきゃいけなかった。

もう一度、舌打ちをし一気にビール缶を空にする。その光景に何を思ったのか。


「ま、まぁ、しょうがないわよ。いくらプロといえど油断するときは油断するわ。あの子達が無事だったから、良かったじゃないの」


視線を逸らし、顔を赤く染め早口にそう言い立てた。励ましてくれたんか…何この女、めちゃくちゃ可愛い。


『なに、慰めてくれてるの?優し〜とこあるんだね〜』


ニヤケを隠すこともせず、肘でイリーナをつつくと真っ赤な顔で調子に乗るな!!なんて怒られたが逆効果だということを知らないのだろうか。


『ふふっ、ありがとうイリーナ』


真っ直ぐに目を見て、思ったことを伝える。


ふすまの外からガヤガヤと女子生徒達の声が聞こえ、私はプシュッと遠慮もなくまた缶を開けた。


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