カタ、と立ち上がりなんだか微妙な雰囲気の教室を後にする。カロリーメイトをくわえながら向かう先はただひとつ。職員室だ。
ちょうど食べ終えた頃には職員室の前、なのだが中からは愉快な笑い声。…シロの声じゃないか、くそ。
コンコンと控えめなノックを数回響かせ、扉をあける。中にいた者、6つの目が私に集中した。
『烏間、ちょっといい?』
職員室に居るシロを1度見つめ、すぐに烏間に視線を移す。当の烏間はあぁ、と一言返事をしてから席から立ち上がり、職員室から共に出るとドアを閉め「なんだ」と口を開いた。なるべくドアから離れ、窓際に体をあずけると口を開く。
『なにもんなの、あの白装束野郎。ものすっごい怪しい上に…気に入らない』
漫画片手に、こちらを見ていた彼を思い出しては眉間にシワがよる。気に入らない。ものすごく。何か裏がありそうな、良いとは言えない印象を抱いた。
無言で窓をあけ、ポケットからタバコを取り出すと火をつける。タバコ特有の匂いが鼻を刺激した。
『それに、兄弟ってなんだ。本当にあのタコに兄弟なんかいんの?んなわけないよね』
「俺も驚いているんだ。何も知らされていない。あいつが言っていたが、機密中の機密事項だそうだ。確かに奴の弟だ、ともな」
『機密中の機密ね…。ますます怪しいし気に入らないわ。それにあんたに知らされてないとなると、どうにも出来ないわね』
ふぅっと、ため息混じりの紫煙を吐き出す。厄介なことに手出しちゃったかなあ、つってももう引く気もないけれど。くしゃ、と携帯灰皿にタバコを押し付けたところで烏間が沈黙を破る。
「殺せそうか」
その一言に火を消していた手が止まる。
『…正直、なんとも言えないわ。マッハ20の怪物なんて相手にしたことも、当然見たことすら無かったのよ。あんたほどの実力があっても、ナイフをあれだけ避けるやつだし。最初の私のアレもまぐれよ。自信なんて、……ないわ』
烏間の顔を見ずに、突然の、なんの脈略もない問いに答える。
『…何よ、突然そんな質問』
「僅かだが、たまにお前は、躊躇するような表情を見せる」
『ッ!!』
思わず烏間の方を振り向いた。鋭い瞳と視線がぶつかり、否定しようと口を開くもののそこから言葉が出ることもなく。結局、口を閉じ窓の外を眺める。
「……変なことを聞いたな。すまない」
『…いいよ別に。教室、戻るわ。ありがとう。あんたも早く戻ったげて。イリーナとシロさんだけじゃ可哀想よ』
じゃあね、と軽く手を振り歩みを進める。前髪をかきあげそのまま後頭部をガシガシとかいた。
躊躇した表情、か。それは確かに事実かもしれない。何度か奇襲をしたこともある。ことごとく失敗したが…。本当に殺していいのだろうか。あんな生徒思いの先生を。
そもそも、あの先生は本当に地球を無くして、生徒達を殺すのか?
とはいえ嘘をついてるとも思えない。ならば殺らなければ。……例え、マッハ20だとしても。
『ほんっと、無茶苦茶だよなぁ』
また、前髪をかきあげ見えてきたクラスにもう何度目かわからない溜息を、重く吐き出した。
ーーー
宣言通りの放課後。教室の中は殺せんせーとイトナ君を囲むように机のリングが作られた。ルールは簡単。机のリングから1歩でも足が出れば"死"。そのルールに殺せんせーは観客、つまり私達に危害を加えた場合も死という項目を追加した。
シロがスッと腕を上げ、暗殺開始と合図を言い放った瞬間にボトリと落ちた、殺せんせーの腕。多分、いや、きっと、皆の目は見開かれ1点に集中したはずだ。イトナ君の頭からウネウネと伸びる―――触手に…。
途端にゾクゾクッと嫌な空気が周りを包む。チラと殺せんせーを見ればドス黒い顔色になり、物凄い殺気を放ちながら叫んだ。
「…こだ。どこでそれを手に入れたッ!!その触手を!!!」
「君に言う義理はないね、殺せんせー。だがこれで納得したろう。両親も違う育ちも違う、だが…この子と君は兄弟だ。しかし怖い顔をするねぇ、何か…嫌なことでも思い出したかい?」
そこからは、イトナくんの圧倒的だった。シロのサポートにより、圧力光線を照射され一瞬だけ全身が硬直する。
その一瞬があれば、先生と同じ触手を持ったイトナくんなら完全な隙になる。硬直の直後に攻撃を仕掛けられるが、間一髪と言った様子で天井の電灯にぶら下がっていた。
どうやら脱皮をして攻撃から間逃れたようで。でもその脱皮にも弱点がある、とシロは続けた。見た目以上にエネルギーを消耗する。そして再生直後にも…。
なんだかなぁ…。
猛攻撃は続き、ついには足の2本の触手を同時に失う。シロと殺せんせーの会話のやり取りを聞きながら、切ない顔で対先生用ナイフを見つめる渚
その頭をクシャっと、撫でてやった。
『大丈夫よ。あの殺せんせーが、そう簡単に殺されたりしないって』
「殺れ、イトナ」
合図直後に今までよりも派手な音を立てて攻撃する。皆、その音に焦る表情をするが悪い顔をしてニヤついている殺せんせーが、そこには立っていた。
イトナくんの触手が溶けている。何故か?殺せんせーが渚のナイフを床に置いたからだ。突然触手を失ったイトナは酷く動揺して、意図も簡単に脱皮した先生の皮に包まれた。
ソレを遠慮なく窓の外に…投げましたー。
「先生の抜け殻で包んだから、ダメージは無いはずです。ですが、君の足はリングの外に着いている。先生の勝ちですねぇ。ルールに照らせば君は死刑、もう二度と先生を殺れませんねぇ」
意地の悪い、でも、いかにも…殺せんせーらしい勝ち方。生き返りたいのならこのクラスで皆と学べ、そう伝えた殺せんせーだが、イトナくんには何も伝わっておらず
俺が弱い?
そう呟くと真っ黒な触手を露にした。血走った目で殺せんせーを睨み襲いかかろうとした瞬間に、シロの麻酔銃で眠らせられた。
イトナくんを担いで、しばらく休学でと言いながら彼らは教室から出ていった。
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