「やー、惜しかった!」
「勝てるチャンス何度かあったよね。次リベンジ!」
『ごめん、まさかあんなブロックされるとは思ってなかったわ』
そう、中村さんや片岡さんの言う通り勝てるチャンスはあった。試合を始める前に、中村さん達をバカにされ腹の立った私はゲーム開始直後に点を入れてやった。
「あれは、しょうがないよ。遊乃さん囲まれまくってたし」
「うぅ、そうだよ、ごめんなさい私が足引っ張っちゃった。女バスのキャプテンのぶるんぶるん揺れる胸元を見たら…怒りと殺意で目の前が真っ赤に染まっちゃって」
「茅野っちのその巨乳に対する憎悪はなんなの!?」
話しながら男子達の所へ向かう。お、野球部相手に勝ってんじゃん。グラウンドを見ると存在感のある背中が即座に目に入った。
「一回表からラスボス登場ってわけ」
『ワー、ステキステキ』
「遊乃ちゃん、すごい棒読み…」
パチパチと心にも無いことを言いながら拍手してみせる。カエデに苦笑されたが、まあいい。するとアナウンスで放送された言葉に私も苦笑を零した。
『野球部顧問の先生は試合前からの重症…それが心配で部員も野球どころじゃなかった、ねぇー、へぇー。良く出来た言い訳だこと』
何度見ても存在感のある、その背中は部員達に近づくと何かをつぶやき、いつものあの自信に満ちた表情で監督席へと戻って行った。
彼らの表情を見ると先程に比べると別人のようだった。
『…洗脳完了ってか』
欠伸をひとつ零しながらそう言うと、カエデはしぶい顔をして、いつものかと溜息を吐いた。
それからE組はバントしかしないと見破られ、近めの守備体制に入られた。カルマがそれに対して抗議し、更には挑発までしたため本校舎の生徒達からはブーイングの嵐。
回が変わり、E組が守備に入ると、次は部員達のバントの攻め。そして一番の実力者、進藤とやらがグラウンドに入ってきた。
『…ネェ、カエデ。あの子、人間には見えないんだけど、私の気のせいだよね??なんか煙吐いてない?』
「…うん、私も気のせいだと思いたいよ」
だめだありゃ、完全に理事長の洗脳にハマってる。どうすんの殺せんせー…。
「明らかにバッターの集中を乱す位置で守ってるけど、さっきそっちがやった時は審判は何も言わなかった。文句ないよね、理事長?」
「ご自由に」
ニヤリと笑う、いつもの余裕たっぷりな顔でカルマは言い放った。それに対し理事長も余裕といった表情で返す。
…だがそれが裏目となり、最早"前進守備"とは言い難い近さで、バッターの目の前まで近づいたカルマと磯貝くんの2人。バットを振れば確実に当たってしまう距離。
『あははッ!そうきたか!ウケる!』
「ちょッ、笑ってる場合じゃないよ!!危ないよ…!」
『大丈夫だよ。あの2人、動体視力すごい良いもん。アレくらい簡単にかわすよ』
「遊乃ちゃん…楽しそうだね…」
『まあね、こんな楽しいの見たことないわ。…多分、いや、絶対勝つよ。この試合』
フェンスに指をかけカルマを見つめ、E組男子を一人一人視界に入れていく。そしてまたカルマを見つめた。
バチッと良い効果音がつきそうなくらいに合った視線。数秒見つめ合うと、カルマは、ふ、と笑い目の前の敵に向かった。
『…まいったなー』
「え?」
『んーや、なんでもないよ』
頭にハテナを浮かべるカエデに苦笑して私も前を向いた。カルマたちの近さに固まる進藤。震えながらに振ったバットも、ほぼ動かずにかわした2人。
カルマは嘲笑うかのような冷たい微笑みを浮かべ、進藤に何かを呟いている。どうせ、「そんなんじゃダメだよ。殺すつもりで振らなきゃ」なんて揺さぶってるんだろうな。だってそんな顔してる。
進藤は、冷や汗を大量にかき投げられた二度目のボールに対して、"腰が引けたスイングー!!"…とアナウンス。
変な方へ飛んだボールをカルマが掴み、渚にパス。肝心の進藤はその場に座り込み、素早い動きで流れて行くボールを見つめていた。
ゲ…ゲームセット…!!…なんとなんと…E組が野球部に勝ってしまった!!
その瞬間に湧き上がる歓声。もちろんE組。逆に本校舎の生徒達は不満げな顔で帰って行った。
『カエデ戻ろっか』
「そ、そだね。…にしても、わー!!本当に勝っちゃったね!すごい!」
隣でハシャグ、カエデに頷きながら教室に戻った。
みんなお疲れ様。ほんとに…。
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