教室の中は、明るい空気で満ち溢れていた。それもそのはず、先程の試合でE組は野球部に勝ったのだから。殺せんせーなんて涙流しながら喜んでるし。


『あ、そうだ』

「…遊乃ちゃん?」

『カエデ、いいこと思いついちゃった』

「え、え!?」


何がなんだか、のカエデに笑ってみせ、まあ聞いててと席を後にする。私が向かった先は、いつも先生が立つ教卓の前。突然の行動に大半の者が私を凝視する。


『この後、用事ある人いる?』


その質問に隣同士に居るクラスメイトと顔を合わせる。そしてポツポツと別にない、と応えが返ってくる。その返事に口角が上がりゆっくりと腕を上げた。


『……焼肉食べたい人…手、あげて?頑張った皆に、祝杯あげさせてよ。勿論、私の奢りで』


数秒の、沈黙。だが次の瞬間ドッと教室中に歓声が木霊した。よしよし、皆参加ってことでいいんだな。うんうん、分かったよ殺せんせーちゃんと貴方も数に入ってるから、そんなアピールしてこなくても大丈夫だよ…。


『んじゃ、一回帰宅して着替えてから集合ってことでいい?律に伝えて連絡回してもらうよ』

「ほ、本当にいいの!?遊乃さん!?」

『いいのよ渚。あんたも皆も頑張ってたし、気にしないで。ほらほら帰って用意する!』

「ありがとう、遊乃さん!!」


満面の笑みで手を振る渚に、私も振り返す。次々お礼を言われながら出て行く皆を、手を振りながら眺めた。あっという間にシンと静まり返る教室。殺せんせーもいつの間にか居なくなってるし。


『…あとはカルマだけだよ?』

「ん、んー。…うん」

『…なによ、どうかした?』

「ね、俺にもご褒美…ちょうだいよ」


ニコリと笑ったカルマはゆっくりとした動作で、私の目の前に立つ。何が欲しいのか分からない私は、なんだ?の意味を込めて少し首を傾げた。

その様子がおかしいように、ふ、と笑うカルマ。イタズラ好きのことだ、どんなことを要求されるか分かったもんじゃない。


『私に出来ることでよろしく』

「遊乃ちゃんにしか、出来ないかな」

『…まさか、暗殺』

「んなわけないでしょ」


腕を引かれて、飛び込んだのはカルマの胸の中。それは一瞬の出来事で、何も言えない私は金魚のように口をパクパクさせるだけ。触れた場所は徐々に温もりを帯びていき、最早全身が温もりに包まれているんじゃないかと錯覚するほどだ。脈打つ心臓はいつもより主張している。

やっとの思いで、絞り出した声はあまりにも掠れていて情けない。


『かるま…』

「…なに、遊乃ちゃん」

『ッ、遅れるわよ』


軽く押した胸板は案外ガッシリとしてて、なのに私の力で簡単に離れた。そしてカルマの襟元を引っ張り、私よりも少し高い頬へと唇を寄せた。


『ご褒美にしては、じゅうぶんだろ?早く帰りなさいよ』


教室が、夕日に照らされてて良かった。でなきゃ多分、私の顔が…赤いのバレてた。


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