ちゃぷ、と湯船の中のお湯に波紋が広がる。バラの匂いが充満した中でひとつ、溜息を零した。頭の中に蘇るのは、教室での出来事。


『まいったなー…ほんと』


本日2度目のまいったな。実感、してしまった。好き、だと。気づいてしまった。改めて実感した気持ちに急に恥ずかしさがこみ上げてくる。

また、溜息を吐き出し前髪をかきあげた。どうしよう。私が、だ。私が人を好きになるなんて思いもしなかった。そりゃ暗殺の計画の一つで"そういう"態度はしてたこともある。


『ある、けどさぁー…!』


あぁー、タバコ吸おう、そうしよう。出よう。一旦落ち着かないと私らしくもない。もう何度目か分かりもしない溜息を漏らしシャワーを軽く浴びた。



◇◇◇



紫煙が上へ流れるのを追って、星を見つめる。そばにおいてある携帯を眺めては溜息。軽くいじって目的の名前を出す。一瞬悩んだが、やはりこの人しか居ないと意を決して名前を押した。


「…なぁに〜。あんたから電話なんて珍しいじゃないの」

『こんばんは、イリーナ』

「どうしたのよ」

『……相談…した、くて』

「…へぇ〜、なんの?」


あぁ、なんて楽しそうな声。イリーナも馬鹿じゃない。きっとわかって言ってるに決まってる。


『………こ…、恋、の』

「アッハッハッハ!!……そうねぇ、赤羽業」

『怖い、イリーナ怖い。そうよ、そうですよ!19歳が!中学生に落とされたわよ!』

「いいんじゃなぁーい?歳なんて関係ないわよ。それとも暗殺者の自分が、なんて思ってるんじゃないでしょうね?それも関係ないわ。女は恋してなんぼよ。暗殺者だろうが、なかろうが恋しちゃいけないなんてルール、きっとないわよ」

『…はは、完膚なきまでに正論ね。ありがと。今度、飲みに行こうよ』

「あら、この私と飲みたいなんて、高くつくわよ?」

『ふ、でしょうね。生憎、私もただの一般人じゃないんでね』

「…オススメの店、教えてあげるわ」

『わかった、よろしく。今日はありがとう、おやすみイリーナ』



別に、いいんだ。私でも、恋して。なーんか気が楽になった。本当にありがとうイリーナ、やっぱハニートラップのトップは違うねぇ。


『おい、律。ニヤニヤすんな。…というか、聞いてたのね』

「えぇ、全てバッチリ聞かせて頂きました。遊乃さん、可愛いですね」

『あーーーもう、うるさいうるさい!寝る!』


くしゃくしゃっと前髪を握りしめ、ベランダをあとにした。


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