『あ、れ…菅谷くん?…腕』
「お、姫龍さんじゃねえか、一番に…見られてしまったな。この腕を」
『…ペイント、だよね……』
「なんだよ、バレたか。流石だぜ…」
『はは、それで教室行くんだ』
「まあな、さて、行こうぜ」
ニヤと笑った菅谷くんは、ゆっくりとした手つきで教室のドアを開けると彼は言った。
"晒したくなったぜ、神々に封印されたこの左腕はよ…"と。
◇◇◇
「へー!ペイントなんだこれ!」
物珍しそうにペイントで模様が描かれた菅谷くんの腕を見つめる倉橋さん。メヘンディアートというもので色素が定着すると一週間ほど取れなくなるらしい。
「あー、インドのやつっしょ」
『カルマ知ってるんだ』
「ん、うちの両親インドかぶれで、旅行いく度に描いてくるよ」
『へぇ、にしても本当すごいわね。菅谷くんこういうの得意なんだ』
ニコリと笑う菅谷くんは、いつもより張り切った様子。その後ろではがたがた震え冷や汗を流し、うちのクラスから非行に走る生徒が出たかと、といつの間に用意したのかわからない"非行について"の本がドサりと置いてあった。
菅谷くんが先生にも描いてやると言って、左頬に線をひとつ引いた瞬間、
ギャーーッ!ギャーーッッ!!ギャーーッッッ!!!
何度か悲鳴が小さな教室に木霊した。ドロりと左頬が垂れる殺せんせーは、まさにホラー。対先生弾を粉末にして塗料の中へ練り込んだらしい。
普通にカッコよく描いてもらいたかっただけなのにと嘆いた先生は、しくしくと顔を覆って俯いていた。
席に座り、メヘンディアートで楽しむクラスの皆を私も眺めていた。順番待ちで全員に(私を除く)描かれた中、菅谷くんはこちらに近づいてニヤリと顔を歪めた。
『ダメ』
「まだ何も言ってないっすよ」
『有難いけど、私は遠慮しとくわ』
「…描けると思ったのになー」
「見ていたら先生も描きたくなっちゃいました。でも皆さん描いてしまっているので、遊乃さん…是非先生に描かせ『嫌よ』……」
うずうずした様子で触手をうねらせる先生に、キッパリと断りを告げる。その時、入ってきたのは―――
「なっ、何皆でバケモノメイクやってんのよアンタら!!」
「「あ…見つけちゃいましたよ。好き放題描けそうな面積の広いキャンバスが」」
『(…イリーナご苦労さま)』
心の中で手を合わせ、イリーナからは視線を逸らした。私にはどうにも出来ない。無理だ。諦めろイリーナ。頬づえをついたところでガンッという音が響き、音の方へ目を向けると壁にもたれて倒れているイリーナの姿。
『…あちゃー』
「あーりゃ終わったね。ビッチ先生」
『こりゃもう二人の餌食だわ』
「…遊乃ちゃんもすれば良かったのに」
『嫌よ。このパーカーは脱ぎたくありません。それにカルマだって手の甲にしかしてないじゃない』
「ちぇ、遊乃ちゃんの夏服が見れると思ったのに」
『っ、見たって何の得にもならないでしょうに』
私の机に座るカルマを見てられず、言葉通り好き放題されているイリーナを見れば、あまりにも酷い惨劇で吹き出した。
『あ、あれは……ふは、切れるぞアイツ…!』
「うわぁー、派手にやるねぇ。俺の出番ないじゃん」
『やめろ、殺されるわよ』
あぁ、ほらほら、言わんこっちゃない…!銃連射し出したじゃない!止めときゃ良かった!勢い良く立ち上がり、イリーナの側へ走る。
『落ち着けイリーナ!ほら、洗いに行くわよ!定着してからじゃ遅いし!』
「キーッッ!!離しなさい遊乃ッ!!せっかくの夏服デビューが台無しよ!!」
『分かった分かった…!そうね、すごくイリーナらしくてセクシーで、似合ってる!綺麗よ!かっこいい!だから落ち着けッ!』
「………」
『い、イリーナ…?』
両腕を正面からそれぞれ掴み、少し上に挙げた状態で必死に説得をしていると突如、銃撃がピタリと止んだ。俯いたイリーナの表情は確認出来ず、何事かと焦る。
ボソリと呟かれた言葉は、
「…消すから、手伝いなさいよ」
『あ、え、あぁ、…分かった』
け、結局なんだったんだ。なんで急に止まったんだ。ま、まあ、なんでもいいけど、とりあえず全身の落書き落とすの手伝わないと。無言で教室を出るイリーナの後ろを、頬を掻きながら着いていったため、教室であんな話になってるなど、私はもちろん知りもしない。
「あんなこと真正面から言われりゃ、誰だって怒りなんておさまるんじゃね」
「アハッ!遊乃ちゃん、おもしれえー。流石だわ」
「あー怖かった。先生本当に殺されるかと思いましたよ…遊乃さんに感謝しないとですね」
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