『…っ、......何時』
「PM14:05分13秒です。おはようございます遊乃さん」
『...ん』
ぼんやりする頭を無理矢理に起こし、支度をする。制服を着てパーカーを羽織り、太ももにナイフを装備する。携帯と財布、車の鍵を鞄に詰め込み最低限の化粧をして家を出た。
車登校は今回限りだごめんなさい。車に乗り込んだ私はエンジンをつけ、おもむろにアクセルを踏んだ。
◇◇◇
…多少……時間は...過ぎてしまったが、問題ないでしょう。今は体育の授業だったか?いつもの長い坂道を登ると、あのいつもの校舎が見えてくる。グラウンドに生徒達が集まり、見知らぬ男が立っていた。誰だ…?まあいい、とりあえず行こ……と、そこで私は目を見開いた。
何かを前原くんが、抗議した瞬間に、男は何の躊躇もなく前原くんの鳩尾に膝をのめり込ませたのだ…。
その光景を認識した途端、フツリと何かが私の中から込み上げてくる―――
「私は嫌です。烏間先生の授業を希望します」
キッパリと男に向かって笑顔で断る神崎さん。それを聞いた男は舌なめずりをして、右手を高く上げる。
バチィッ……!!!
『おいおい、クラスのマドンナにまで何しようとしてんだテメェは...』
またも躊躇なしに振りかぶった男の右手。それを掴む私の手には自然と力がこもる。ミシッと骨の軋む音が私の耳に響く。小さく私の名前を呟いた彼女は……震えていた。それに、また怒りが込み上げる。
『前原、平気か』
「あ、あぁ、」
男から目線を外さずに声をかける。苦しそうだが、大丈夫だと答えたのを聞いて、抑えられるはずもない殺気を放ったまま、睨みつけ口を開いた。
『誰だテメェ、何してんだ』
「…今日から補佐をすることになった、鷹岡だ。お前が姫龍 遊乃か。遅刻してきたうえに、父ちゃんに逆らうなんて悪い子だ」
『ハッ、笑わせる。父ちゃんだと?私の父親は一人だけだ。お前じゃねぇ』
「チッ…物分りの悪い女だな。文句があるなら拳と拳で語り合うか?そっちの方が得意だぞ?」
『...ほぉ〜......奇遇だな、じゃ、遠慮なく』
左手で神崎さんを優しく私の後ろに隠し、その瞬間に掴んでいた右手を思い切り捻った。少し偏った重心を良いことに、足を引っ掛けそのまま背中に踵を落としては地面に倒してやった。
うつ伏せに倒れた背中を跨ぐよう座り、太ももから素早くナイフを取り出す。このまま心臓に一突き、それでもいいが...何とか堪え、男の顔のギリギリすぐ横に思い切り突き刺した。
『…お前と私、この場に二人だけなら今頃お前はココ刺されて死んでる。良かったなぁ?コイツらが居て』
心臓がある場所を人差し指で押す。そして、聞こえてきた声にナイフを終うと男の上から退き、舌打ちを漏らした。
『…何やってんだ』
この質問は、前原に対して大丈夫かと心配している行為に言っているものではない。
『体育の担当は、お前だろうが…烏間』
こんな事態になったことに対して言った質問だ。無言のままな烏間に、また声をかけようと口を開くがそれは無駄に終わった。
「忘れてたぜ。殺し屋の女が、生徒になってるってこと…安心しろ烏間。ちゃんと手加減してるさ、俺の大事な家族なんだ。当然だろ」
その言葉に思い切り男を睨みあげた。うっ、と呻きをあげる男の肩には、黄色の触手があった。
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