「いいや、あなたの家族じゃない。私の生徒です」


怒りに震える殺せんせー、多分今すぐにでも鷹岡を、この世から消し去りたいと思っているだろう。だがそれをやってしまったら、その瞬間に先生は先生じゃなくなってしまう。分かっていて、理解した上でベラベラと鷹岡は言い訳を並べた。
文句があるのか?体育は担当の俺に任されている。短時間で暗殺者を育てる。厳しくなるのは当然。それとも教育論が違うだけで、お前に危害を加えてない男を攻撃するか?


卑怯だ。やり方が、言い方が…全てが。だが男の言っていることも理論上事実だ。今すぐこの手で男を殺ってしまいたい。そんな気持ちが何度も芽生える、だが押し黙った殺せんせーを見て私の理性は、すんでのところで働いてくれた―――


鷹岡が生徒を集める中、地面に落ちていた紙を拾う。それは時間割で中学生の彼らにはあまりにも、酷なもので、それを烏間に見せ、八つ当たりのように睨む。


『これが、中学生にやらせる訓練かよ。…大半は潰れてもいいって考えてんだろうな。それにこんな時間割、親にはなんつーんだよ。極秘なんだろ』

「ええ、その通りですよ。私から見れば間違っているものの、彼には彼の教育論がある。ですから烏間先生あなたが、同じ体育の教師として否定して欲しいのです」


殺せんせーの真っ直ぐな瞳に、烏間は俯き神妙な表情を見せる。いつまでも煮え切らないその態度に腹が立ち、ドンと胸を叩く。


『いつまで、悩んでんだ!!お前らしくもねえ。私はいまだに怒りがおさまんねえし、私から見ても分かる、あんなのはおかしいだろ。……知ってるか?神崎さん、震えながらにも、お前の授業を希望するって、そう言った。それでもお前はまだ悩むのか?』


私の目を見て、逸らさない烏間。それでも迷いの表情が浮かんでいる。私の袖を掴み、震えていた神崎さんを思い出し、眉根を寄せた。その時、後ろから小さく烏間先生〜と懇願するように助けを求めるように誰かが呟いた。

スクワット地獄の中、呟いたのは倉橋さんだった。その目の前には鷹岡が手を挙げ立っている。あぁ、またか。また手を出すのか。舌打ちを零し、いい加減痺れを切らした私は動こうと、足を踏み出した、


「それ以上…生徒達に手荒くするな。暴れたいなら俺が相手を務めてやる」

『(…おせぇんだよ、バカ)』


私よりも早くに止めたのは動いたのは、烏間だった。やっとか、無駄に悩みやがって。

鷹岡は烏間に掴まれた腕を、強引に離し、ここぞとばかりに一つの話を持ちかけてきた。懐から対先生用ナイフを取り出し、皆に見せつける。そして言い放った内容は、


「お前が育てたコイツらの中で、イチオシの生徒を一人選べ。そいつが俺と闘い、一度でもナイフを当てられたら…お前の教育は俺より優れていたと認めよう。ただし、姫龍遊乃。勿論アイツは候補から外せ」

『…チッ』

「姫龍以外の生徒が俺にナイフを当てられれば、お前に訓練を全部任せて、出てってやる!!男に二言は無い!ただし、勿論俺が勝てばその後一切、口出しはさせないし…使うナイフはこれじゃない」

『ッ!お前、まさか…』

「あぁ、そのまさかだ。殺す相手が人間なんだ。使う刃物も本物じゃなくちゃなァ」


歪んだ顔をしながらカバンから取り出された、本物のナイフ。まさか、本物が出てくるなんて思ってもみなかった生徒達は皆、目を見開き硬直している。当然だ…。烏間が声を荒らげ抗議するが、寸止めだし俺は素手だ、ハンデだ。と引く様子は一切無い。


本物の刃を持つんだ。人に向けるんだ、ビビらないはずがない。それに彼らは中学生だ。カルマなら、カルマが居たら……ハ、私は、何考えてんだか…。多分、カルマじゃダメだ。…いや、ダメじゃないないけど多分違う。


チラ、と烏間を見ると視線に気付き数秒見つめ合う。狂ったように叫んだ鷹岡が投げたナイフを拾い上げた烏間は一直線に、…彼の元へ向かった。



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