今日の殺せんせーは本当に変だ。ずっと涙を流している。只今、お昼時…ぐすぐすと響く泣き声は供託で涙を流す殺せんせーが原因。

痺れを切らしたイリーナが、ようやく殺せんせーにつっこむ。


「なによさっきから意味も無く涙流して」

「いいえ、鼻なので涙じゃなくて鼻水です」

「まぎらわしい!!」

「どうも昨日から体の調子が少し変です。夏カゼですかねぇ…」


殺せんせーでも風邪なんてひくんだ。…本当に風邪なのか怪しいところだけど。先生を眺めていた私だが、突如ガラという音に目を向ける。

何食わぬ顔で入ってきた寺坂だった。寺坂を見た殺せんせーは鼻水を大量に撒き散らしながら、寺坂へとかけよる。


「…………おいタコ。そろそろ本気でブッ殺してやんよ。放課後プールへ来い、弱点なんだってな。水が。てめーらも全員手伝え!!俺がこいつを水ん中に叩き落としてやっからよ!」


そう言い彼はまた、教室を出て行った。昨日と違うのは渚があとを追ったこと。話している二人を見て、窓を開く。


「…と皆に具体的な計画話した方が、1回しくじったら同じ手は使えないんだし」

『そうだよー、寺坂くん。君だけが計画を知ってたって私達は上手く動けない』

「チッ、うるせぇよ。弱くて群れるばっかの奴等が!本気で殺すビジョンも無いくせによ」

「…………」

『弱い奴ほど、吠えるもんなんだよね』

「…遊乃さん…怖いよ」

『昨日から思ってたけど、あの子やっぱいつもと違う。何やらかしてくんのかな』


頬杖をしながらも軽く肩を竦めては、渚と苦笑を零した―――


◇◇


「よーし、そうだ!!そんな感じでプール全体に散らばっとけ!…で、テメーは何してんだ姫龍」

『んー、何かあった時のための控え…?水着持ってきてないし』


ニコリと笑って両手をあげる。ズカズカと近づいてきた寺坂は私の腕を掴むなり、そのままプールに突き落とした。


「全員じゃないと意味がねェんだよ!!」


あーあ…やってくれるじゃないか。濡れた前髪をかきあげては、溜息を吐き出す。パーカーを脱いで地面に置く。やってきた殺せんせーと話す寺坂は、銃を構えた。

打った瞬間に、響いた轟音は銃を打つ音にしてはデカ過ぎて、後ろから岩が飛んでくる。舌打ちを鳴らしては勢い良く流れる水流に抗う。


岩の窪みを掴み、流れてくる生徒を掴みあげるが、何人もというわけにもいかない。濁流な上、制服のままだ。水を吸ってかなり重たくなってる。

遠目に見えた寺坂の表情は、驚きに満ちていて、ああ、操られてたのはアンタじゃないか。そう思うも、今の状況をなんとかしないと、この子達は死ぬ。下は確か岩場。


急いで飛んできた先生は、私にも触手を伸ばそうとするが先に叫ぶ。


『私は平気!!先に他の生徒を!』


無言で頷いた先生は、あっという間に生徒達を引き上げていた。その頃には水は全て下に流れており、ただの岩場と化していた。咳き込みながらも近くの生徒に平気かと声を掛ける。

頷いたのを確認して、進む。寺坂の方へ。


進んでる最中、カルマが茂みから出てきて私達を、この場を見て目を見開く。


「…何コレ?爆音がしたらプールが消えてんだけど」

「…俺は…何もしてねぇ。話が違げーよ…イトナを呼んで突き落とすって聞いてたのに…」

「……!!…なるほどねぇ…自分で立てた計画じゃなくて、まんまとあの2人に操られてた…ってわけ」

「言っとくが俺のせいじゃねーぞカルマァ!!こんな計画やらす方がわりーんだ!皆が流されてったのも全部奴等が…」


言葉途中で寺坂からカルマを私の後ろへと引き離し、左手で寺坂に平手打ちを食らわせる。驚くカルマ、放心してる寺坂。


『計画をやらせた、あいつらが悪い?まあ、それも間違いじゃないわ。でもね、実行したのはあんたよ。操られてんのは、あんただよ』

「…標的がマッハ20で良かったね。でなきゃお前、大量殺人の実行犯にされてるよ。流されたのは皆じゃなくて自分じゃん。
人のせいにするヒマあったら…自分の頭で何したいか考えたら?」


後ろから聞こえるカルマの言葉に心で頷きながらも、私は先に奥へと走る。…と思ったのだが、腕を掴まれ歩みは止まる。


『え、なに』

「コレ、着といて」


そう言いカルマは、自分が着ていた上着を私の肩にかけた。チラ、と私の服を見れば見事に透けていて納得する。


『有り難く借ります』


そして今度こそ、先生の所へと走る。ドンパチやってるとこだろう。案の定、下の方にはイトナと戦う殺せんせーの姿。その頭上には、木につかまって固まる原さん……。

あとから来た寺坂は、自ら操られていたことを暴露する。だが、操られる相手は選びたい、そう言った寺坂の表情は今までの寺坂ではなかった。


「カルマ!テメーが俺を操ってみろや。その狡猾なオツムで俺に作戦を与えてみろ!完璧に実行してあそこにいるのを助けてやらァ!」

「良いけど…実行できんの俺の作戦?死ぬかもよ」

『よく言うよ。殺す気なんてないくせに』

「やってやんよ。こちとら実績持ってる実行犯だぜ」


頼もしい背中は歩いて行くがカルマは冷静に呟く。「まだ考えてないけどもう行くの?」と。顔を赤くしてこちらを振り向いた寺坂に、私は笑うのだった。


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