「思いついた!原さんは助けずに放っとこう!」


ニコやかな顔してトンデモ発言をしたカルマに、皆は顔を青くする。ふざけんなと抗議する寺坂だが、どうせカルマのことだからきちんと考えがあるんだろう。


「…寺坂さぁ、昨日と同じシャツ着てんだろ。同じとこにシミあるし。ズボラだよなー。やっぱお前悪巧みとか向いてないわ」

「あァ!?」

「でもな、頭はバカでも体力と実行力持ってるから、お前を軸に作戦立てるの面白いんだ。俺を信じて動いてよ、悪いようにはならないから」

「……バカは余計だ。いいから早く指示よこせ」


◇◇


『行ってらっしゃい寺坂くん』


ヒラヒラと寺坂に向かって手を振る。私を一瞬見て「おう」と小さく呟いた寺坂は、シロとイトナに向かって叫んだ。


「おいシロ!イトナ!よくも俺を騙してくれたな」

「まぁそう怒るなよ。ちょっとクラスメイトを巻き込んじゃっただけじゃないか。E組で浮いてた君にとっちゃ丁度良いだろ」

「うるせぇ!!てめーらは許さねぇ!!」


下まで降りてイトナの近くに行った寺坂はシャツを脱ぎ、水に浸したそれを盾のように構えた。「タイマンを張れ」と言った寺坂を殺せんせーはすぐに止めるが、寺坂は一歩も引かない。嘲笑したシロはイトナに黙らせろと、指示を出した。


「カルマ君!!」


その光景を上から見ていた渚が焦って声を上げるが、カルマは笑っていた。


「いーんだよ死にゃしない。あのシロは俺達生徒を殺すのが目的じゃない。生きてるからこそ殺せんせーの集中を削げるんだ。原さんも一見、超危険だけど攻撃の的になることはない。落ちたとしても殺せんせーが見捨てないのは体験済みだし」


下からは鈍い音が一つ。イトナの触手に死ぬ気で喰らい付いてる寺坂の姿があった。


『…ふふ。カルマありがと、返すわ』


そう伝え上着を渡して走り出す。後ろから渚の声が聞こえたが小さく手を振り、歩みは止めない。飛び降りやすそうな…そして大きな水飛沫が上がりそうな……あァ、ココからならデカイのが出来る。

片方の口角を上げ私は思い切り…飛んだ。それが合図かのように次々と皆、飛び込んでくる。水浸しになったイトナの触手は殺せんせーと同じように膨れだした。


「だいぶ水吸っちゃったね、殺せんせーと同じ水を。あんたらのハンデが少なくなった。で、どーすんの?俺等も賞金持ってかれんの嫌だし、そもそも皆あんたの作戦で死にかけてるし、遊乃ちゃんの濡れたエロい姿見てるし、ついでに寺坂もボコられてるし…」

『(途中にいらんこと挟むなっての)』

「まだ続けるなら、こっちも全力で水遊びさせてもらうけど?」


それぞれに水を含んだ得物を構える生徒達を眺め、シロは踵を返す。小さく息を吐き前髪をかきあげた。今日はよく濡れた日だったわ。

後ろから聞こえる賑やかな声に振り返れば、寺坂に水の中へ掴み落とされたカルマの姿。思わず笑えば、苦笑している渚と目が合った。下にずらされた視線。その直後に顔を真っ赤にして視線を逸らした渚に内心首をかしげる。

殺せんせーと話してた渚だが、次は殺せんせーが私を見てはへにゃりと顔を綻ばせた。……あぁー、透けてるんだっけ。どうすっかなー、体操服持ってきてな「遊乃ちゃん!」

騒いでいたはずのカルマがバシャバシャと水を蹴りながらこちらに近づいてくる。その手にはカルマの黒い上着。また肩にかけられたそれは濡れていて、ヒヤリとしていた。


「……濡れてるけどないよりはマシでしょ」

『ありがと』


私は気にしないけど、そうもいかないんだろうな。


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