グラウンドに響く掛け声は、ごく一般的なものでそれだけを聞けば学生が体育をしているのだろうと、すぐに分かる。文字通り声だけを聞いていたら。

だが私達の姿を見れば、多分……いや絶対に驚くだろう。ナイフを手に持ち素振りの練習をしているんだから…。
にしても本当に異常な光景だよなぁ。大人一人、その横に地球外生物。しかもタコのような姿形…それが体操服を着ているんだから。

そんな殺せんせーは、杉野くんの一言で落ち込み砂場でしくしくと遊んでいた。


「…やっとターゲットを追っ払えた。授業を続けるぞ」

「でも烏間先生、こんな訓練意味あるんスか?しかも本人がいる前でさ」

「勉強も暗殺も同じことだ。基礎は身につける程役に立つ」

『……確かに』


どういうことだと言いたげな表情の渚。あれ、烏間先生の言葉の意味分かってるの私だけ?あれ?


「例えば…そうだな。磯貝くん、前原くん。そのナイフを俺に当ててみろ。そのナイフなら俺達人間に怪我は無い。かすりでもすれば今日の授業は終わりでいい」

『……多分、てか絶対当たんないよ』

「え?でも二人がかりだよ?」

『うーん、私達は一般人だよ?しかも中学生。二人だろうがド素人の私達がドプロの烏間先生に適うわけないよ』

「な、なるほど…」


私の言った通りどの方向から攻撃しても、二人のナイフはかすることなく、尽く捌かれイラついた二人は首元目掛けてナイフを振るった。
だが次の瞬間、手首を掴まれ一瞬で地面に倒されてしまう。


「俺に当たらないようではマッハ20の奴に当たる確率の低さがわかるだろう。見ろ!今の攻防の間に奴は砂場に大阪城を作った上に、着替えて茶まで立てている」

『うわぁ〜、腹立つ顔』

「クラス全員が俺に当てられる位になれば、少なくとも暗殺の成功率は格段に上がる。ナイフや狙撃、暗殺に必要な基礎の数々。体育の時間で俺から教えさせてもらう!」

『うぅーん、烏間先生かっこいい』

「あはは、結構女子から人気っぽいよ」

『だろうね』


鳴り響いたチャイムに行こっかと、教室を指さす。そういえば次、小テストだったなー。杉野くんと思ってることが重なり苦笑いを零した。


「体育で終わって欲しかったよね」

『本当だよー!このまま帰りたっ、!……うわぁ、遅い登校しちゃって』


ふいに前を向いて視界に入ってきたのは、風になびく真っ赤な髪。彼の好きなイチゴ煮オレを片手に笑う、懐かしい人物だった。


「?……!!カルマくん……帰って来たんだ」

「よー渚くん、理乃久しぶり」

『おはよ、遅かったね。もう六時間目始ま、ちょ、っと!』


歩いてくるカルマに、ひらひらと軽く手を振る。目前まで近づいてきたカルマは無言で私を抱きしめた。


「会いたかったよ、理乃」

『ちょちょ、わか、った!わかったから!』

「あ、あれが例の殺せんせー?すっげ本トにタコみたいだ」


ちゅ、と耳元にリップ音を残してカルマは私から離れた。熱くなった顔を隠すように、ガシガシと後頭部を掻きむしっては、驚いている杉野くんに『今は何も聞かないで』と釘を打っておいた。

それからはカルマの一方的な攻撃……と言うよりは嫌がらせレベル?握手を求めた右掌には対先生用ナイフが細かく貼り付けていて、まんまと引っかかってしまった殺せんせー。嫌がらせレベルだが、触手にダメージを与えた初めての生徒になるわけだ。


これでもかというほど、ニヤリと口元を崩し殺せんせーを挑発したカルマはナイフを弄びながら教室へと向かうのだった。


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