カリ、カリ……ブニョンっ…カリカリ、ブニョンッ


『(んんっ……集中できない)』


浅いため息を吐いて、ブニョンブニョン言わせている音の原因、殺せんせーを見つめる。壁に向かって打ち付ける触手が不思議な音を出しては、小テスト中の私達の集中力を途切れさせる。

殺せんせーの気持ちも分からないことはない。いきなりやってきた初対面の生徒に触手を破壊され、あんな挑発を受けたんだ。きっと悔しくないわけがない。それは分かる…分かるんだけど、いい加減痺れを切らした岡野さんが先生にうるさい!とE組の皆が思っていることを口にしてくれた。


「よォ、カルマァ。あのバケモン怒らせて、どーなっても知らねーぞー」

「またおうちにこもってた方が良いんじゃなーい」


寺坂達の言葉にカルマを見るが、なんのダメージも受けていないようで、まぁ当然かと今度こそ手元の紙に集中する。そうだよね、自分達は泣くくらいビビってたもんね。


「…殺されかけたら怒るのは当たり前じゃん、寺坂。しくじってちびっちゃった誰かの時と違ってさ」

『あはっ(よくぞ言ったカルマ!)』

「な、ちびってねーよ!!テメ喧嘩売ってんのか!!黒咲も笑ってんじゃねぇ!!」


ドンと机を叩いて立ち上がり反論するが、全然怖くないよジャイアンくん。それにカルマと喧嘩したってジャイアンくんじゃ勝てないよ。


「こらそこ!テスト中に大きな音立てない!」

『(ごもっともだけど、先生が言えたことじゃないのでは…)』

「ごめんごめん、殺せんせー。俺もう終わったからさ、ジェラート食って静かにしてるわ」

『どこから出したのソレ!?』

「ダメですよ授業中にそんなもの。まったくどこで買ってきて…そっ、それは昨日先生がイタリア行って買ったやつ!!」

「あ、ごめーん。教員室で冷やしてあったからさ」

「ごめんじゃ済みません!溶けないように苦労して寒い成層圏を飛んできたのに!!」

「へー……で、どーすんの?殴る?」


チロと舌先でジェラートと食べるカルマは平然とすごいことを口走る。ダメだ、テストどころじゃなくなってきた。


「殴りません!!残りを先生が舐めるだけです!!」


あ、残り舐めちゃうんだ。カルマと間接キスだね殺せんせー。なんて些細なことを考えながら、近づいてくる殺せんせーを見つめる。

カルマの近くまで来た途端に、いつの間にばら蒔いたのか対先生弾を踏み嫌な音を立てて弾けた先生の足。次いで三発程打たれた銃弾を殺せんせーはなんとか避けた。


「何度でもこういう手使うよ。授業の邪魔とか関係ないし。それが嫌なら…俺でも俺の親でも殺せばいい」

『カルマ!!』

「…でもその瞬間から、もう誰もあんたを先生とは見てくれない。ただの人殺しモンスターさ。あんたという"先生"は俺に殺されたことになる」


ゆるりと立ち上がり、殺せんせーの服にジェラートを擦り付け小テストを放り投げたカルマ。去り際に私の頭をひと撫でし、ニッコリと微笑み「明日も遊ぼうね!」と、教室を出て行った。

なんとも言えない空気の中、重苦しい雰囲気だけが残る。汚れてしまった服をハンカチで拭き取る、表情の暗い殺せんせーに、何故だか罪悪感と悲しみを覚えた。

カルマが悪い、そうは言いきれない。殺せんせーが先生であるための越えられない一線を、頭の回転が早いカルマは見抜いた上で挑戦状を叩きつけたようなもの。

「先生を殺す」

それだけがきっと今のカルマの原動力。どうするんだろ殺せんせー。カルマを…どうか助けて。杉野くんを助けたみたいに……


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