あの後は暗い雰囲気の中、授業は終わった。イタリアまでジェラートを買い直しに行くと教室を出て行った殺せんせーの手には、カルマが解いた小テストとカルマに関して書いてある資料。

イタリアまでに色々と作戦を練るのだろうか。


「理乃ちゃん、」

『ん、あぁ、ごめんボーッとしてた』


帰り道はカルマの話で持ちきりだった。杉野くんからは、カルマと付き合ってるのか?と質問を受けるが、違うそうじゃない話すと長いんだこれが!
なんとか誤魔化しているうちに、いつもの駅が見えてきて解散となる。良かった間逃れた。


「じゃーな渚!黒咲さん!」

「うん、また明日〜」

『お疲れさま!気をつけて』


二人きりになったことで、安堵のため息を吐く。苦笑する渚に今日は疲れたと、愚痴を零した。歩き出した少し先に、こちらを見つめる椚ヶ丘中学の制服を着た二人組を見つけ、嫌な予感が体を駆け巡る。


「…おい渚だぜ」

「隣は確か、黒咲だっけ?なんかすっかりE組に馴染んでんだけど」

「だっせぇ、ありゃもう俺等のクラスに戻って来ねーな。黒咲はクラス唯一の美人だったのに勿体ねー」

「しかもよ、停学明けの赤羽までE組復帰らしいぞ」

「うっわ、最悪!マジ死んでもあそこ落ちたくねーわ」

『はぁ……渚、前向いて。私が付いてる』

「!?理乃ちゃんっ、!!」


わざと聞こえるようにだろう。楽しそうに私達を嘲笑いながら話す姿は、なんと醜いことだろう。だったらこちらも見せつけるように、渚の右手と私の左手を絡め恋人繋ぎをする。焦る渚を放って、更に片方の手で腕を抱きしめるように密着し、目を見開く二人をこれでもかと睨んだ。
あいつら私に告白してきたことがある。もちろん丁重にお断りした。

ガシャッと響き渡った音に、まーた派手にやらかして、とそう思う反面よくぞやってくれた!と拍手を送りたくなった。嘘。全面的に良くやった!


「えー、死んでも嫌なんだ。じゃ、今死ぬ?」

「あっ赤羽!!」

「うわぁっ」

「あははっ、殺るわけないじゃん。ずっと良い玩具があるのに、また停学とかなるヒマ無いし。で、理乃ちゃん…妬けるんだけど」

「わ、わわ、ごめん理乃ちゃん!」

『あ、そうだった忘れてた。なんで渚が謝るのよ。ごめんね勝手に』

「……そーだ渚くん、聞きたいことあるんだけど殺せんせーのことちょっと詳しいって?」

「…う、うん、まぁちょっと」

「あの先生さぁ、タコとか言ったら怒るかな?」

『あは、むしろ逆じゃない?自画像タコだし』

「うん、僕もそう思う。この前なんか校庭に穴掘って「タコツボ」…っていう一発ギャグやってたし、先生にとってちょっとしたトレードマークらしいよ」

『あはは!やってたやってた!あれは本当に腹抱えて笑ったよ』

「…ふーん、…そ〜だ、くだらねー事考えた」


階段を上がり見えてきた駅のホームでは「特急電車が通過します。ご注意ください」と、幾度となく聞いてきたアナウンスが流れる。


「…カルマくん次は何企んでるの?」

「俺さぁ、嬉しいんだ」


ゴォッとでかい嫌な音と風を持ってきた電車は、こちらを振り向いたカルマの不気味な表情に、怖いくらい合っていて、鳥肌が立つ。


「ただのモンスターならどうしようと思ったけど、案外ちゃんとした先生で。ちゃんとした先生を殺せるなんてさ。前の先生は自分で勝手に死んじゃったから」

『…………』


じゃあ俺この電車だから、そう言って乗って行ったカルマはイキイキとした表情をしていたが、私はとても複雑です。ぼんやりとあの日のことを思い浮かべれば、仕方がないと言えなくもない。

……私では、どうしようもできないよ殺せんせー。


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