なんとも、なんともタチが悪い。私が登校して来た時には既にこうだった。ただならぬ空気の中、見て見ぬ振りをしては自分の席へと座る。

聞こえてきた足音に、カルマはニヤリと、私はため息と、皆は固唾を飲み込んだ。
いつもの笑顔で「おはようございます」そう言って入ってきた殺せんせーは、いつもと全く違うクラスの雰囲気をいち早く悟った。


「…ん?どうしましたか皆さん?」


供託の上、ド真ん中にはあるはずの無い丸ごと一匹のタコ。そのタコには深々と突き刺さっている本物のナイフ。それを見た殺せんせーの雰囲気が瞬時に変化した。


「あ、ごっめーん!殺せんせーと間違えて殺しちゃったぁ。捨てとくから持ってきてよ」

「………わかりました」


ヌチャ、生々しい音を立てタコを片手にこちらを向く。次の瞬間、数本の触手の先にドリルが出てきたかと思うと、


「見せてあげましょうカルマくん。このドリル触手の威力と、自衛隊から奪っておいたミサイルの火力を…先生は暗殺者を決して無事では帰さない」


なんとも美味しそうなタコ焼きが出来上がっていた。突然口に熱々のタコ焼きを入れられたカルマは「あッつ!」そう言って反射的に放り投げる。


「その顔色では朝食を食べていないでしょう。マッハでタコ焼きを作りました。これを食べれば健康優良児に近づけますね。先生はねカルマくん、手入れをするのです。錆びて鈍った暗殺者の刃を。今日一日本気で殺しに来るがいいその度に先生は君を手入れする。

放課後までに、君の心と身体をピカピカに磨いてあげよう」


あぁ、この人は本当に先生だ。本当の本当に"先生"だよカルマ。あいつとは違うんだよ。これから磨かれるであろうカルマに、差し出された美味しそうなタコ焼きを頬張っては頬が緩むのを感じた。


◇◇一時間目・数学


数学の時間、黒板に数式を書く殺せんせーは当然私達に背を向けることになる。睨むようにその背を見つめるカルマ。そんなカルマを盗み見て、私は軽く目を見開いた。

先生の触手がカルマの腕ごと、銃を掴んでいたから。


「……と、なります。あぁカルマくん、銃を抜いて打つまでが遅すぎますよ。暇だったのでネイルアートを入れときました」


◇◇四時間目・技術家庭科


「ん、美味い」

『…そりゃどーも』

「不破さんの班は出来ましたか?」


私の後ろから抱きしめるように覗き込んで、スープの感想を伝えてくれる。素直に嬉しいが恥ずかしい!!!私の気持ちも知らないで、じっと不破さんと先生とのやり取りを見つめていたカルマは、ゆるりと近づいて行った。


「なんか味がトゲトゲしてんだよね」

「へぇ、じゃあ作り直したら?一回捨ててさ…!」


鍋の持ち手を、思い切り叩いてスープをばら撒く。その隙に殺せんせーへ襲い掛かったカルマだが、攻撃は避けられ花柄のバンダナと胸に大きなハートの着いたエプロンを着せられていた。もちろんスープはきちんと回収され、味の調節もされていた。


◇◇五時間目・国語


「―――私がそんな事を考えている間にも―――赤蛙はまた失敗して戻ってきた。私はそろそろ退屈し始めていた。私は道路からいくつかの石を拾ってきて―――」


朗読してるもんが、当てつけかってくらい今の状況と同じだよ。「赤蛙はまた失敗」「私はそろそろ退屈し始めていた」…ね。

無理だよ、カルマ。殺せんせーは今、常に警戒してる。ほんの僅かな殺気だとか動きだとかに敏感になってる。無茶だよ……本気でカルマを磨こうと、変えようと、向かい合おうとしてくれてるんだから…。


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