昼休みいつものように、お弁当を持って渚の席へと行く。まだ浮かない顔をしている渚に私も苦笑する。


『やっぱり失敗しちゃったんだね、杉野くん。どんなアイディアだったの?』

「うん、野球ボールに対先生弾を埋め込んで投げる、っていう内容だったんだけどね」

『へぇー、考えたね!すごい!』

「けど失敗に終わっちゃって、杉野も相当落ち込んでる」

『…みたいだねー。あんなに落ち込んじゃう理由、あるんだろうね』

「多分、ね」

『…元気になるといいけど』


口に運んだ卵焼きは、いつもより冷たく感じてあまり味がしなかった。密かに盗み見た杉野くんは深い溜息を零しては、なんとも言えない表情で右手を眺めていた。



◇◇◇



「今日の授業はここまでです。皆さん気をつけて帰ってくださいね。では先生はニューヨークまで行ってスポーツ観戦して来ます」


ニンマリ顔で言うやいなや、窓から飛び出た殺せんせーの姿はものの数秒で小さくなっていく。それを見計らったように教室のドアから入ってきたのは、部下を連れた烏間さん。


「どうだ、奴を殺す糸口はつかめそうか?」


おいおい無茶だよ、烏間さんや。あの先生マッハ20だよ?人間超えてるんだよ?そんな標的を一般ピーポーのしかも中学生の私達が殺せるわけないじゃない。

と、それをきっとE組の皆が思っているであろうことを磯貝くん(だったかな?)が言葉にする。


「その通り、どんな軍隊にも不可能だ。だが君達だけはチャンスがある。奴は何故か君達の教師だけは欠かさないのだ。月を見れば分かる通り…その時、人類は1人たりとも助からない。
奴を生かしておくには危険すぎる!!この教室が奴を殺せる現在唯一の場所なのだ!!」

『…ねぇ、烏間さん』


険しい顔をしている烏間さんを見据え、声を出した。シンとした中で突然声を出したせいか何十もの瞳がこちらを見つめ、物凄く後悔するが最早遅い。


「どうした」

『……あー、えっと、あの先生、私そんなに危険とは思えないんです。月を爆発させて次は地球。そんな時に、あんな真剣に先生やって、どうしてすぐに地球をヤっちゃわないのか…何か理由が、ある、の、かなぁ……なん、て…えと、思い、まして、はい。ごめんなさい』


睨むような、鋭い目線に耐えられず語尾が徐々に小さくなっては居た堪れなくなり目線を床へ移した。その後に聞こえてきたのは大きな溜息。うん、ごめんなさい…


「そんな呑気なことを言っている場合ではない。先程も言ったが、地球を爆発されれば全人類は助からない。君達だけが頼りなんだ」


…なんという、プレッシャーだろうか。落ちこぼれの私には、烏間さんの言葉はとても重く深くのしかかってきた。烏間さんが出て行った後もここから一歩も動けずにいると、肩に少しの重みが加わる。

ゆっくり顔を向けると、複雑な表情をした渚が私を見ていた。


「帰ろっか、理乃ちゃん。何か美味しいものでも食べに行こうよ?」

『……ん、ありがと渚。ごめん』


ふわりと笑った渚の笑顔は、私には眩しくて温かくて、いつも私を助けてくれて心を軽くしてくれる。本当にいつも助かってるよ渚。ありがとう。


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