紐と鎖と重り。




齢9歳と、数ヶ月にして本気で死を覚悟した子供がいるのだろうか。世界はとてつもなく広くて大きいから、きっといるんだろうけど、狭い平和な世界でしか生きてこなかった私の周りでは、生まれてこのかた聞いたこともない。

川を見つけたのは良かった。ワニを避けて水分補給が出来たのも、良かった。けど私の向かった先が、どうやらとんでもなくよろしくなかったようだ。

あぁ、一生の運使い果たしちゃったんだな私。恐怖で声が出ないとか、足が動かないとか、そんなわけないでしょ!なんて思ってごめんなさい、本当の本当にその通りだった。現に私の喉は、紐で締め付けられたみたいに声が出ないし、足は鎖を何重にも巻かれ重りを何十個も付けられてるみたいに、動かない……動かせない。


「ぁ、っ……ぅ……、」


縫い付けられたかのように、逸らせない視線は私よりもうんと高くて、私よりも何十倍、何百倍も体の大きなトラ。鋭利なんてもんじゃない、視線だけで殺されそうな瞳で睨まれた私は即座に死を覚悟したわけだ。


おばあちゃんにちゃんと電話しといて良かったな、とか、パパとママが一ヶ月帰ってこれなくて良かった、とか、村長のことだとか懐いてくれてた村の子だとか、誕生日のことだとか、脳裏にブワッと溢れてきた。ついでに涙も溢れてきた。


背中にポツリと居座る鉄の棒なんて、私にはなんの意味も無かったみたい。こんな巨大猛獣相手に、棒切れ一つでどうしろって話だ。ルフィ……こいつに食われてたり、しないよね?どうか、どうか無事でいるんだよ。


「なんでお前は逃げねぇんだよ!!」



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