夢を掲げて十年



―――夢を見た。とてもとても懐かしくて心温まる、そんな夢を。でも全てに靄ががかってて、私の前にいる三人の子達の顔が全く見えない。必死に手を伸ばすけど、徐々に遠ざかって行く。待って、お願い、行かないで、そう叫んだって景色はどんどんと暗くなっていくばかりだった―――


「あ……、っ」


小さな声が漏れ、目尻からは涙が伝う。最近よく見る、子供の私が同い年くらいの男の子達と仲良く遊ぶそんな夢。雑に両目を擦り、隣で寝ているラティにギュッと抱きつけば、身動ぎ一つして私に擦り寄ってくる。

ラティとも、もう何年の付き合いだろうか?ウルウルの実を食べた狼人間。いつもは人間の姿だけど眠る時だけは、狼姿のラティ。温かくて安心する。


「また、夢見たの?」

「ん」

「オレはここにいるよ」

「ん、ねぇ、ラティ」

「なに?」

「愛してるよ」

「オレもあいしてる」


寝起きの掠れた声で。この夢を見るようになってから何度目かのやり取り。私を慰めてくれるかのように、ザラりとした舌が頬を舐めた。

いつもなら二度寝する所だが、今日はそんな気分にもなれない。シャワーでも浴びて気分転換でもしようか。


「シャワー浴びてくるよ」

「分かった。いってらっしゃいノーラ」


サラサラの黒い毛並みを撫でて、目を閉じたのを確認する。音を立てずに起き上がり、床に足を付ければヒヤリとした冷気が一瞬で体を包んだ。

洗面所の鏡に映る私の顔は、酷い表情をしていて笑ってしまう。勢い良く蛇口を捻り、何かを洗い流すように顔へ水をぶつけた。
そんなものじゃ、やはり変わりはせず右耳に着いてる色違いのリングピアスを撫でた。


「……おはよう」


アレから、九年か……。泣いても笑っても、時は待ってくれず過ぎるばかり。



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