あの幸せは、過去
―――過去編
二階の私の部屋まで漂ってきた、いい香りに自然と私は眠りから覚めた。両目を擦り、パジャマを脱ぎ捨てお気に入りのワンピースに袖を通す。
下から聞こえできた声は私を起こすもので、それよりも早く起きたことに少し優越感に浸り起きてることを伝えた。
階段を降りればいい香りは一層強くなり、日課になった朝ごはんが待ってると腹の虫が反応した。
「おはようパパ!」
「あぁ、おはようノーラ」
新聞から少し顔を覗かせパパはニコリと笑った。次にキッチンへ行けば鼻歌を響かせ支度しているママに声をかける。
「おはようママ!」
「おはようノーラ。今日は一人で起きたのね、偉いわ」
素直に嬉しくなり、鼻が高くなる私はなんとも単純だろうか。いつものように人数分のお皿を出し、コップを並べミルクを注いだ。
ママが持ってきてくれたお皿の上には、ソーセージが三つと目玉焼きが二つ。カボチャのサラダとカゴに入ったふわふわのパン。
「ママ、なんで私だけ目玉焼き二つなの?」
「今日は自分で起きられたからよ」
「わ、やった!」
「良かったなぁ、ノーラ」
新聞を畳みイスに座ったパパは、私の目玉焼きを見てくしゃりと頭を撫でた。みんな揃っていただきますをして、食べ終わった自分の食器を洗う。
一言ママと呼べば、何を言いたいのか分かってくれたようで首からスカーフを取り私の首へ巻き付けてくれた。
「へへ」
「ノーラ、分かってる?」
「うん!ママの大事なものだから絶対に汚さない無くさない!」
「はい、良い子ね。ん、出来たわよ!気をつけて行ってらっしゃい」
鏡の前でつけられたスカーフを眺め一回転してみる。うん、ママのスカーフは可愛い。
またまたお気に入りのサンダルを履いたところで、後ろから静止の声が掛かった。
「これ、焼いておいたの。おやつに食べなさい」
「やったー!ママの焼いたクッキーだ!」
小さなポシェットに大事にしまい、今度こそとママに手を振った。朝の匂いをお腹いっぱいに吸い込んで、空を仰ぐ。眩しいくらいの太陽を見つめれば、目が痛いほどでチカチカした。
通り過ぎる人達に挨拶を交わしながら、目的の場所へと走る。途中何度か転びそうになったのを耐え、目当ての場所が見えてくる。
あたり一面の花畑。着いたと同時に飛び込み仰向けになれば、暖かい日差しがなんとも心地よい。荒い息を数回繰り返し、落ち着いたところですぐ近くにあるお花を近づけ匂いをかいだ。
「いい匂い……」
ポシェットをすぐ横に置いて、お花をつむ。ママに教えてもらった花冠を作るためだ。手馴れたものですぐに出来上がり自分の頭に乗っけては、ほんの少しお姫様気分。
立ち上がり、歌を歌いくるりと舞う。いつの日かパパとママに見せたら酷く喜んでくれた。その日から私はこのお花畑で一人、歌と踊りの練習をしている。
将来の夢は踊り子になるって決めたから。パパとママをもっと、世界中の人を笑顔に出来るような、そんな踊り子に。
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