戻った記憶は悲しくて




「ま……ま、ぱぱ…?」


二人を呼んだって、返事をしてくれないことくらい嫌でも分かる。二人の下からは真っ赤な液体が広がり、いつもいい香りで溢れていた部屋は鉄臭さで充満していた。


「ァ……ッ」

「がっはっは、船長容赦ねぇ!夫婦揃って仲良くあの世行きたぁ、幸せだねぇ!」


四人のうちの誰かがそう言ったのを聞いた瞬間、私の中で何かが鈍い音を立てて切れた。

ふわ、と気づけば全身に風をまとっていた。それに気づいた両親を殺した船長とやらが、何かを叫んだようだがおかしいな、私の耳は何も拾わない。


「ころす」


小さく呟いた三文字は、男達に届いていないのか無音の世界のまま一人が近づいてくる。手を軽く振り払えば、思い切り壁に叩きつけられた男はそのまま気を失った。

焦った様子の船長が、ママにしたように私に銃口を向け弾を放つが私に届く目前で止まり回転を失った弾は床へと落ちる。


「ころしてやる」


押さえつけるように、男達に向かって手のひらを突きつければ、壁に叩きつけられ身動き出来なさそうだ。

何かを必死に叫んでいるようだが、やはりまだ耳は機能していない。

壁に叩きつけられ、浮いたままの男達を潰すかのようにゆっくりと手のひらを握れば、いつの間にか男達は動かなくなっており、より一層鉄臭さが増した。

ゆっくり……ゆっくりと、もう動かなくなってしまった二人に近づく。


「ママ……スカーフまだ、返してないよ?パパ、帰ったら踊りみてくれる約束だったよね?」


ぴちゃ、と響いた水音に思わず足を止めた。水じゃない、真っ赤な……二人の血。再度進める足にぴちゃ、ぴちゃと音は続いた。二人はまだ暖かいのに、どうしてまた私の名前を呼んでくれないのだろう?どうして笑顔で抱きしめてくれないだろう?どうして、おかえりと微笑んでくれないのだろう?


「なんで……」


小さな足音に反射で振り返れば、そこにはラティが居て小さく笑った。こちらに向かってくる最中、男達に一度視線を移したラティ。


「あぁ、私のせいだよ。私がやった」


足元まで来たラティをじっと見つめる。パパとママを殺され、殺したやつを、私は殺した。やってることは……やってしまったことは、アイツらと同じなのか、

そう思ったら、強烈な吐き気と目眩を覚え足の力が抜けた。そしてそのまま意識が途絶えた。



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