自己防衛本能
頭を撫でられた感触に目を開けば、見覚えのない天井に少し戸惑い記憶を遡る。あぁ、そうだ、パパとママ……
「ノーラ!」
聞こえた声に視線を向けると、そこには獣の耳が生えた男の子が私を見つめていた。誰だっけとか、考える前に言葉が先に飛び出す。
「ラティだ」
「っ!!なんで、分かったの」
「さぁ?なんでだろ」
力なく笑った私を見て"人間"の姿になっていたラティは、苦しそうに顔を歪めた。なんだかそんな表情を見るのは嫌で、視線を逸らせばラティは小さくじいさん呼んでくると言い立ち上がる。
彼の宣言通り、じいさんと何故かお医者さんを連れて戻ってきた。念のためだと検査をしてもらい、異常なしという先生の言葉におじいさんはそっと胸をなで下ろす。
「あ、あの」
「なんじゃ」
お医者さんが別の患者のところへ行くため、部屋を出て残された私達。なぜだか重い空気が部屋を立ち込めてた。
「あの二人どうして死んじゃったの?おじいさんは誰?何も思い出せないんだ」
「お前さん……」
困ったように笑えば、村長は私を抱きしめていた。大量の涙を零しながら、何度も何度も「すまない」と繰り返す。
「……どうして泣いてるの」
「すまない、ノーラ……!!」
力強く抱きしめてくれる腕が、今はなんだか温かくて少し寂しかった。お医者さんの話では、両親が死んでしまった日までの記憶が綺麗さっぱりなくなってしまっているらしい。
だから直前までそばにいたラティのことは覚えているが、何をしたかはまったく覚えていない。苦しそうな表情をしたラティに、小さくごめんねと呟けば更に顔を歪めた。
「ノーラは、オレが守るよ」
驚くほど真剣に紡がれたどこか懐かしい言葉に、私はありがとうとしか言えなかった。
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