荒れ狂う風



引かれた指を視界が捉えた瞬間勝手に動いた足は、銃弾の軌道を大きくずらし壁を撃ち抜いた。見上げたテイサーは目を見開いており、私が避けるなど微塵も思っていなかったのだろう。

まただ。何も聞こえない。立ち上がった私にテイサーは何を言っているのか、口をパクパクとさせているがその音を私の耳は拾わない。

もう一度合わされた標準は、額。私の頭の中は「殺さなきゃ」という単語で埋め尽くされていた。なんの勝算もなく一歩足を踏み出したところで、突然の衝撃が私を襲った。瞬きをしたすきに、遠のいたテイサー。戻ってきた音は、聞きなれた声で、私の耳を占領する。


「ノーラ!!!」

「ラ、ティ……はな……離して!!私あいつを!!!」

「落ち着け!」

「離して!お願い……!離せ!!離してよッ!らてぃっ、」


能力を封印されていれば、ただの女の私にラティが負けるはずもなく言葉を遮るよう私を抱きしめた。包まれた温もりにジワリと涙が溜まり視界をボヤけさせる。

抵抗するのをやめ、拳を握り締めれば応えるかのよう私を抱く力が増す。長年流していなかった涙は、壊れたダムのように止まることを知らない。

私は、両親の仇を……殺された村の人の仇を家族だの命の恩人だのと慕っていたのか。なんて、情けない話なんだろう。悔しくて悔しくて唇を噛むことしか出来ない私は、なんて情けないんだろう。


「……〜〜っ、ご、めん……っ、」


やっと口に出せた言葉はその三文字だった。誰に対してなのか、何に対してなのかなんて自分でも分からない。それでも、それでも謝らずには居られなかった。ラティの肩に押し付けた額からはじわりと温もりが伝う。



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