今夜は貴女を/渚



カリカリ、とひたすら何かを書く音と、私が煙を吐き出す息遣い。それ以外はこの部屋から何も聞こえない。真剣にノートと向かう恋人の伏し目に、可愛なぁなんて思いながらも、ここ間違ってるよと呟いた。


『渚、そろそろ休憩しない?』

「ん、もうちょっとだけ」

『……(本当真面目だなぁ)』


勉強に集中するのはいい事だが、時には休憩も必要だ……ってのもただの口実だけど、事実でもあるし。久しぶりに会ったのが勉強会だなんて、少し寂しい。いや、会えただけでもいいんだけどさ!でもやっぱ、寂しいわけで。そんな葛藤の末、思いついたのが口に含んだ煙を勢い良く渚の顔に吹きかけることだった。……ガキかよ私。


「こほっ、ちょ、遊乃さん!?」

『…勉強、応援したげたいし、伏し目眺めてるのも可愛いから良いんだけど、やっぱちょっと寂しいから休憩がてら構ってよ』

「っ、ねぇ、遊乃さん」

『なぁに……ちょ、渚!?』


名前を呼ばれた際に振り向いたすぐ前には、渚の整った顔があって、腕を掴まれ渚はそのままタバコを一口吸った。


『ちょちょちょ!!何して、わわッ、』


何も言わずに至近距離でゆるりと、顔に吹きかけられた煙は、あまりにもけむたくて涙目になるのが分かる。何故かやった本人も咳き込んでるし。可愛いな。

苦笑いを零したあと、渚はおデコにキスを落とし耳元に口を寄せる。


「…遊乃さん知ってる?顔に煙を吹きかける意味……今夜お前を抱く、そういう意味らしいよ」

『ッ!!』


ちゅ、とリップ音を首筋に残してニッコリと笑った渚のいつもは見られない、男の表情を、私は多分一生忘れないし、忘れられないと思う。真っ赤な顔を隠すように口元を手で覆っては、知ってるし、なんてバレバレな嘘を吐き出した。


「楽しみだね、遊乃さん」

『うるさい、休憩はなし!早く勉強しろッ』

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