好きだと、言わせて/桜華様(相互記念)




トントン、と控えめに響かせた音に何かを真剣に書いていた先生の肩は小さく揺れた。その様子に申し訳なさと愛おしさを含めて、コチラを見た先生に「驚かせちゃって、すみません」と呟く。


『渚くんか、びっくりしたー。おはよう!今日も早いね』


僕に気づいて笑った先生に、思わず貴女に会いたいからと、言いそうになったのを挨拶で誤魔化す。ゆっくりと窓際に近づいては『今日も窓からおはよ』そう僕の頭を優しく撫でた。

窓からなのは、僕の制御心と理性です先生。


「…遊乃先生って、恋人とか居るんですか?」

『唐突だねぇ、渚くんや……そうだなー、募集中とでも言っておこうか』

「あ……先生のこと皆知りたがってて!」

『へぇ、そりゃ嬉しいなぁ』


ごめん先生、半分……嘘。皆が先生のこと知りたがってるのは本当だけど、恋人の有無は僕が知りたかっただけ。そっか、募集中、か。希望、あるかな……。


『そういう渚くんは、どうなのよ』

「え、あ……好きな人は、います」

『ほお!だれだれ!言わないから教えてよ!』

「…内緒、ですよ」

『ちぇー…くっつけてやろうと思ったのに』


唇を尖らせ、ポケットに手を入れた先生は、あ、と声を漏らした。


『飴、入ってた。あげる。ミント味だけど……好き?』


"好き"その二文字に、全く意味は違うのにドキリと僕の心臓は音を立てる。


「っ、好き…です。……すごく」


『よかったー』なんて無邪気に笑う先生のことも、その笑顔も声も全部好きです。なんて、言えたらいいのに―――

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