if 万事屋よ永遠なれ




薄暗い路地裏。風は吹いておらず、天気も悪いせいか陽の光が届いていないこの場所は余計に暗く感じさせる。煙草の煙を追って上を見上げれど嘲笑うかのようにどす黒い雲が太陽を隠していた。

ゆっくりと煙を吐き出す。いつから吸い始めたんだっけ……あぁ、そうだ、止める人が居なくなってからだった。本当に……どこほっつき歩いてんのよ。


『銀時……』


また、煙を吐き出しそう呟くや否や、後ろから振るわれた拳を軽く避け、そのまま腕を掴み思い切り前へと投げ倒す。背中を強打した輩は苦痛に顔を歪ませた。


『たった五人程度で私をどうこう出来ると思ったの?』

「お、まえはッ!!」

『こーんな薄暗い路地に一人で居るただのか弱い女とでも?残念あんたらが百人お友達を連れてこようが私から金目のモノは奪えないわよ。今すぐそこの影に隠れてる仲間連れて失せるか、あんたの首が胴体から離れるか……選ばせてあげる』


そう男に向かって微笑んで見せる。手に握る小刀が不気味に光るのを見た瞬間、男は悲鳴をあげ走り去って行った。


『……情けな』


思わず出た本音に溜息を吐き出す。小刀を鞘へと仕舞い震える携帯に手を伸ばした。画面を開けばなんとも懐かしい名前が表示されていた。出るか悩んでいると、着信画面は消え再度同じ名前からの着信。何度目か分からない溜息を零し、通話ボタンを押して耳に宛がった。


『…どうしたの、神楽ちゃん』


変わってしまったはずの神楽。変わってしまったはずの新八。なのに耳に響いた彼女の声は彼女の言葉は…あの頃の、あの輝いてた頃の彼女で、


「遊乃!聞くアル!万事屋、再結成アルネ!!」

「遊乃さん!そういうわけです!戻って来てください!」

『っ、…………嫌よ。どうしてそうなったかは知らないけど、店主様が不在だもの』

「返せメガネっ!…そう言うと思ったアルヨ。いいから一度こっち戻るネ!そこで全部話すアル!……遊乃姉の元気な顔、見たい」

『〜〜〜っ、わ、かったわよ。何時になるか分かんないけど、……っ…行くわ……多分…』

「絶対アルヨ!!今約束したネ!!早く来るアル!!」


ほんっっとに神楽はずるい。私が神楽に、というか女の子に弱いこと知ってて「元気な顔が見たい」だなんてあんな切なそうに言われたら断れるわけがない。……結局うだうだ悩んで万事屋に着いたのは、明け方だった。

そろーっと気配を消して扉を開く。……あぁー、万事屋だ、懐かしいな。あの頃の万事屋……ただいま。銀時…あんたはいつ此処に戻ってくるのよ、あんたはいつになったら私を抱きしめてくれるのよ。いつに、なったら……また、私の名を、呼んでくれ「遊乃……?」

あまりの懐かしさに、込み上げてきた切なさに玄関で蹲ってた私の先から響いてきた声は、私がずっと…ずっと待ち望んでいた声で、まさかそんなあるはずがない。だって、だって銀時は……。

こちらへと近づいてくる足音に未だ顔は上げられず、声の人物の足元が見える。それは、いつも銀時が身にまとっていた服の模様で、それを認識してやっと私の顔は上がった。


『ぎん……とき、』

「えっ、あ、やべ、違います違います!人違っ……」


思わず抱き着いていた。何が人違いだよ、どこからどう見ても銀時じゃんか…何言ってるのよ。アタフタしていた銀時だが、やがて何かを諦めたように小さな溜息を零し、私を抱きしめ返した。涙が止まらない。


「これが効かないただ一人の人物ってお前かよ。……泣くなって、お前の涙に銀さんが弱いの知ってんだろ」

『バカ言わないで!!どれだけ待ったと思ってるの…どれだけあんたの腕に抱かれるのを望んでたと思って、っ!!』


銀時を睨みあげ、文句の一つや二つ、三つでも言おうと思ったのだがそれは叶わず代わりに銀時の舌が私の口内を犯す。

…あれ、……なんか、違う。懐かしい、キスの仕方……


『っ、……は、…ぎ、とき…まっ、て』


銀時の胸を力いっぱい押し、まじまじと顔を見つめる。暗くてちゃんと見てなかったから気付かなかったけど……若い。どういうこと?しかも何かおでこに付いてる。


『銀時、なんだか若返った?あと、おでこに何か付いてる』

「えぇーっと確か、俺の姿が見えるやつには話してもいいって約束だったよな」

『…何の話……』

「いやまぁね、話すと長ぁーくなるわけなんだがとりあえず言わせてくれ。未来の遊乃も物凄く綺麗だな」

『ふざ、ふざけないで銀時!!……未来…の、私?』


とりあえず突っ立ってないで酒でもどうだと、手を引かれいつもの客間へと連れられる。懐かしいソファーに腰掛け、間を置いて銀時は真剣な表情をみせた。

今、私の目の前に居る銀時は過去の銀時で…この世界、つまり目の前の銀時からしたら未来の世界を救う為にやって来た。この未来の銀時が居ない世界に。

でもって、おでこに付けている物は他の人達から銀時の姿を別人に見せる為の装置らしいが、一人だけその効果が効かない人物が居るという話。その人に出会ったら全てを話せ、必ず協力してくれるはずだ、と装置を貰った人物に言われた。らしい。


『……つまりそれが私ってわけね。てことは神楽達にはあなたは別人に見えてるわけで、私は何も知らないように振る舞えばいいのね』

「物分かりが良すぎて助かるなー」

『このまま銀時の居ない世界なんて、私にとっちゃ生きる意味がないのと同じだもの。当たり前よ』

「うわあー、何そのセリフ。銀さん萌える。わざと?わざとなの?抱いていいですかコノヤロー」

『怒るわよ。……んんー、じゃあ銀時に触れられるのは今だけ、か』


実感すれば、寂しくなって銀時の膝の上へと跨りそのまま首元へと抱き着いた。まだ少し混乱してるが、頭の回転が早くて助かった。明日からが本番だ。ここではあの頃から変わってしまった人が沢山だから。

全部…元に戻そう、銀時。

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