七夕/カルマ微微甘

じめじめとした梅雨も明け、夏に向けて暑さが本格的に仕事をし始めた頃、憂鬱な月曜日の朝に登校すれば皆の机に何の変哲もない紙きれが一枚、見てくださいと言わんばかりにポツリと置かれていた。

渚と二人で首を傾げ、ドアから一番近い机の紙きれをつまみ上げそのまま覗き込む。緑を基調とした可愛らしいポップなデザインのそれは " 3-E 七夕祭り開催 " と、夜空、星、織姫と彦星など七夕に関係するイラストが描かれていた。

「ふふ」

殺せんせーらしすぎる楽しそうな提案に、渚も同様のことを思ったのか目が合うと思わず笑みが零れた。内容はこれまたせんせーが言いそうなことで、いつでもどんな時でも私たち生徒を楽しませてくれる優しいせんせーだ。

「ふーん、男女ペアで仲を深めるチャンス…ね」
「うぉっ、お、おはよカルマ」
「おはよう、カルマくん」

いつの間にやら居たのか、気配を消して後ろにいたため全く気づかずビクリと肩を揺らしてしまう。今は目の前の紙に興味がいっているのか、私たちの挨拶に軽く返事をするだけだった。

徐々に他の生徒達も登校しはじめ、だんだんと賑やかになっていくクラスにぼんやりとここまで明るくなれたのもせんせーのおかげなんだよね、と祭りのことで盛り上がってる皆を眺めた。

「遊乃ちゃんはさ、」

ちらりと、隣の赤が疑問を投げかける。それはいたってシンプルで祭りは行くのかとのことだった。

「勿論行くよ。殺せんせーが提案した事だし、何より楽しそうだし。カルマは?」
「俺も行くかな、特に用事もないし」
「そっか、皆来れるといいなあ」

それは私の本心で、殺せんせーがいなかったらきっと私達はここまで仲良くも明るくも、自分に自信を持てることもなかったはずだ。だからこそ、殺せんせーが考えてくれたイベントではもっと皆と仲良くなれるなら絆を深められるなら、そうしたい。と、

「……さっきから何、カルマ」

じっと、横からの視線が痛くて何か言いたげで、流石に暗殺の訓練を毎日受けている身なのだから、敏感になっている為気づかないわけもなくこちらも視線をカルマへと向ける。

「仲深めたいやつでもいんのかなって」

その言葉に驚くと同時に少し笑ってしまった。純粋に皆が祭りに参加できて、皆が楽しめれば良いと思って全員参加だといいなと言葉にしただけだったのだが、どこか拗ねた表情をした彼は小さな勘違いをしたみたいだ。

「そうだねぇ、皆がより仲良くなれたらいいと思うけど、強いて言うならカルマかな」

そこでなんともタイミング良くカエデに呼ばれたため、赤い顔を隠すように立ち去ろうとしたのだが、掴まれた右手がそれを阻んだ。

「俺も」

たったの三文字それだけで理解出来てしまった、私は振り向けずにいると茅野呼んでる、とカルマは簡単に腕を離した。

その瞬間歩き出し、カエデに抱きつけば「なになに、どうしたの!?」なんて背中をさすられながら、私はうぅ〜と間抜けな声しか出せなかった。

「絶対可愛い浴衣着ていく〜っ!!」
「えぇー…?」


こっそり見ていたせんせーが、青春ですねぇなんてニヤけていたのはまた別のお話です。

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