Happy birthday! Allen Walker.

吐く息も真っ白な、この季節、この日屋根から眺めるは雪で覆われた白銀の街中に煌びやかなネオン。大きなツリーを見て私は思い出す、そういえばそうかと。


「クリスマスか」


今日、何日だっけ?24日?ここ最近立て続けに任務やら、泊まりがけの任務やらをこなし続けていたせいで休みもままならず、日付感覚をすっかり失っていたようだ。


「あ、」


ぽつりと零れた声に思い出す事実。急いで時間を確認すれば短い針は1を指していて、引いた血の気に慌てて人目につかない路地へと降り立ち街中のショーウィンドウを眺めてみた。

ふと目に入ったのは、とてもシンプルな十字架のネックレス。私達に深く、深く根付いていて切り離せない宿命、運命のようなもの。メッセージカードには " 救いの象徴 " とだけ書いており、まさにAKUMAの魂を救済している彼らしいなと思った。

ドアベルを鳴らし店へと入れば暖かい空気が身体を包み、息を漏らす。いらっしゃいと笑ったお爺さんに軽く会釈をした。


「あの、あそこに飾ってある十字架のネックレス。誕生日用で頂きたいのですが…」
「あぁ、かしこまりました。お嬢さん見る目がいいね…。贈り相手をきっと護ってくれるよ」
「……そうだと、嬉しいです」


微笑んだお爺さんは少々お待ちを、とネックレスを包装する。きっとホームでは今頃バースデーパーティをしている頃だろう。そういえばリナが開催するから早く帰ってきてと言っていた。まだ間に合うだろうか、プレゼントを受け取り足早にホームへと向かった。

息も切れきれにホームへ着いたのは深夜2時を回った頃だった。当然食堂は暗く、酔い潰れた何人かが誰かの優しさでかけられた毛布にくるまり、いびきをかいていた。彼はまだ、起きているだろうか。


「ジェリー」
「あら、ラズアじゃないの!今帰り?」
「うん、たった今。アレンのパーティ間に合わなかった」
「終わったのはほんの少し前だから、まだ起きてるはずよ」
「本当?良かった。ねぇ、軽めのワイン、グラスに貰えない?」


おやすい御用よ、とウィンクを決めたジェリーは即座に赤色の綺麗なそれを用意してくれた。


「ありがとう、ジェリー。後で片付け手伝うよ」
「何言ってんのよ。貴女にそんなことさせられないわ。楽しんできなさい」
「……ありがとう」


扉前、何故か緊張してしまい戸を叩けずにいた。小さく深呼吸をしてやっと数回ノックすれば中から愛しい声が響く。久しぶりに声、聞いた。
開いた扉から覗いた白に飛びつきたくなる衝動を抑え、ワイングラスをつきつけた。


「ラズア!?」
「誕生日おめでとう!アレン!遅くなってごめんなさい。どうしてもお祝いしたくて、疲れてるとこ申し訳ないん……アレン…?」


私の頬を軽く撫でた彼は、そのまま私をゆっくり抱きしめた。こんなことならプレゼントだけ持ってくればよかった、きちんと抱き締め返せやしない。


「……アレン、私も抱きしめたいから中入れてくれる?」


ハッとしたように彼は私からグラスを一つ受け取り、私の手を引いて中へと誘う。そしてもう一つのグラスを奪い机へと置けば早々にまた私を抱きしめた。今度はちゃんと抱きしめて、サラサラの髪を撫でた。


「アレン」
「ん」
「誕生日おめでとう」
「ん、ありがとうございます」


ぎゅう、と抱く力が強まる。ぽつ、ぽつと零すような弱々しい声に聞き取ろうと呼吸をも弱める。


「……僕、こんなに幸せでいいのかな。ホームがあって、あんなに仲間が居て、そして君がいる」
「いいんだよ、アレン。私はね、いや、皆アレンに笑ってて欲しいって思ってる。幸せでいて欲しいって」


私が開けるのもなんだが、仕方がない、箱からネックレスを取り出して私の肩に頭を預けてるアレンの首に回し付けてやる。勢い良く顔を上げたアレンは泣きそうな表情をしていて私までつられてしまいそうだ。
裏向きのメッセージカードを目の前に掲示する、もちろん真っ白だ。

頭の上にクエスチョンマークを生み出しているアレンに笑って今度は表向きにする。数秒カードを見つめていたアレンの瞳は少し見開かれた。


「AKUMAを救ってばかりのアレンを救ってくれますようにって、私の勝手な願掛け!神の使徒だもの、働いてる私の言うこと一つくらい聞い…っ」


噛み付くようなキスに目を見開く。段々と苦しくなる息にいつの間にか繋がれていた手に力が籠った。


「あ、れん、」
「…急にすみません。我慢、出来ませんでした。ありがとうラズア、一生大事にします」


ヘラと笑ったアレンは私まで嬉しくなりそうなほど、幸せな表情をしていた。


「……Happy birthday Allen Walker.」

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