クリスマスイブ/カルマ



「遊乃ちゃん」

『んー?ケーキはまだだよ』

「そうじゃなくてさ」


キッチンで一人、黙々とケーキにデコレーションを施している彼女を呼びかけてもこちらを見ずに、ケーキと格闘している。気配を消して近づき首元に顔を埋めた。肩を震わし驚く彼女をよそに俺の鼻腔を独占した、ケーキなのか彼女のものなのか分からない甘い匂いに浸る。いー匂い。


『ど、どしたのカルマ。あとちょっとだよ』

「ん…」


肩越しに見るケーキはほぼ完成しており、苺を乗せれば終わりだそうで。お腹に手を回せば優しい声で笑う遊乃ちゃん。しばらく黙って見ていれば出来た、と嬉しそうな弾んだ声。


「すっげ…うまそー」

『美味しいよ!』

「まだ食ってないじゃん」

『…そうだけど。ほら!くっついてないでお皿出して!』


美味そうなケーキを前に、自信満々な彼女は俺に早く食べて欲しいらしくお皿!と呟いた。ハイハイと返事をしながら、片手で半身をこちらに向け、軽く唇を貰う。目を見開いて頬を赤らめる遊乃ちゃんはいつまで経っても可愛い。ふ、と笑みが零れ名残惜しさを胸に彼女から離れた。


『……どう…?』


テーブルにはお皿が二枚。そこに綺麗に切られた俺好みのケーキが乗っていて、好きな飲み物も用意してくれてた遊乃ちゃんは俺の表情をまじまじと見つめ不安げに瞳を揺らした。


「そんな心配しなくても、めちゃくちゃ美味いよ。ありがと遊乃ちゃん」

『…っ、良かったぁあ!!初めて作ったから自信なかったんだよね』

「美味しいよ、って自信満々に言ってたじゃん」


それとこれとは別、とふくれてしまい彼女はケーキを口に運んだ。その瞬間、顔が綻び美味しいと声にする。それがまた可愛くて愛おしくて笑ってしまう。ケーキも食べ終わり食器を重ねていた彼女はふいに『あ、そだ』と呟いて棚から紙袋を取り出してきた。ニッコリと笑って俺に差し出す。


「え、なにこれ」

『…何ってクリスマスプレゼント』

「見ていい?」

『ふふ、当たり前じゃない』


ゆっくり袋を止めていたシールを剥がし、中身を見る。そこにはワインレッドの色をしたシンプルなマフラーが入っていた。あ、やばい嬉しい。


『く、黒かそれか悩んだんだけど、カルマの服装黒多いから…そっちにした』

「すげえ嬉しいありがと。俺からもあるんだよね」


多分もう来るんじゃない?と言った瞬間に鳴った家のチャイム。驚きながらも玄関へ向かい、宅配便の人とやり取りをして帰ってきた彼女の手には紙袋。喜ぶ彼女は早速開けてもいいかと聞いてくる。いいよと答えるや、俺と同じようにゆっくりとシールを剥がして中身を確認した。その瞬間に固まる表情。


『ちょっと…カルマ、冗談でしょ』

「あはッ、半分冗談」

『半分…本気……』


袋から取り出された、サンタのコスチューム。勿論、普段遊乃ちゃんが履かないようなミニスカート。


「ごめんって、怒らないでよ。本トはこっち」


細くて白い腕を引っ張り、傷一つない綺麗な指にゆっくりと付けたソレは、以前一緒に買い物してた時に彼女が密かに見ていた指輪。


『う、そ…なんで、これ』

「見てたでしょ」

『なんで知って!でも、これ…』

「ちゃんとペアだよ」


彼女が見ていた指輪はペアリングというやつで、片方付けた指を彼女に見せるとその瞳には涙。抱きついてきた彼女を支え、そのまま背中を撫でてやる。


「泣くほど嬉しかった…?」

『ん、すごい、嬉しい、ありがとカルマ』

「どういたしまして。んじゃ、もうちょい…鳴いてもらおっかな」



―――そう私の耳朶を弄びながら低く囁いたカルマは、ゆっくり私を押し倒した。上から私を見つめるカルマから視線を逸らせず、顔に熱が集まるのを自覚した。優しく微笑んだカルマを見て、心臓がきゅ、と縛られた。

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