獣化/カルマ


もう、固まるしか無かった。鏡に映っている自分を見つめて何かの間違いではないかと何度も心で繰り返すが、多分、違う。あぁ、そうか、夢か…!そう、夢なら、仕方が無い。


『…夢でもないかぁー』


自分の頬をつねって目が覚めないかと期待したが、どうやらそれも虚しく終わった。大きな溜息を吐き出し、ゆっくりとソレに触れる。

そう、自分の耳……というより、頭の上の耳に……うん、触り心地抜群、ふわふわだ。猫の耳かしら?そしてチラと、後ろには意思とは関係なしにユラユラと揺れている尻尾を眺めた。


『どうしよう』


率直な感想。…心当たりは、…ある。あいつだ、殺せんせーだ。最近よく頭痛が起こると相談したら少し考えたあと、彼は薬をくれた。マッハでつくってくれた調合薬らしく、一瞬毒かと疑ったがそれはすぐに消え去った。あの先生が生徒を殺すはずがない。

夕食の後に飲むよう言われ、飲んだのが昨日の晩。そして朝起きて顔を洗おうと洗面所に立ったわけだ。…ええ、今の状況に至るわけです。


学校に行けない。今日は土曜日だからいいけど、この状態が何日続くか分からない。どうしよう。とりあえずベッドに戻ってスマホを取り着信履歴から一番上の名前をタップして耳に当てた。

数回コールが響いたあと、眠そうな声が聞こえてきた。


「ん、どしたの遊乃」

『かるま、おねがいたすけて』

「は、何、すぐ行くから待ってろ」


寝ぼけた声から一転してすぐにそう言ってくれたカルマは電話を切り、家のチャイムが鳴ったのはそれから約10分後だった。


『カルマ?』

「俺だよ、開けて」


カルマの声を聞いた瞬間、鍵を開けて彼の腕を引いて素早く中に入れる。即座に鍵を締めてそのまま抱きついた。あ、カルマの匂いだ。


「ちょ、なに、どうしたの遊乃、え……え?」

『かるまああああああ』

「あ、ちょっと待って。離れて、まず写真撮らせて」

『ふざけんなバカ!』


私の姿を認識するなり、慣れた手つきでカメラを構えようとするカルマに腹が立ち、胸を叩く。ふざけるな、私はほんとーーーに困っているんだぞ、耳が生えるとか冗談じゃない!外にも出れないし、カルマとデートだって出来やしない…もしかして、一生……この、まま?やだ、うそ、泣ける。


『どうしよカルマ、このまま戻らなかったら私一生外に出れない、どうしよ』

「あ、ダメ、本ト待って。朝から理性ぶっ飛ばしたくない」

『なんの話だバカ!』

「(本物の猫耳つけといて、上目遣いやら涙目やらは反則でしょ)」


目を片手で覆い、長い溜息を吐くカルマ。とりあえず、部屋に行こうと靴を脱いで腕を引かれた。二人向き合うようにベッドに座り、何を言い出すかと思えば「耳、触っていい?」などと聞いてきやがった。


『……別にいいけど、楽しんでるでしょ』

「当たり前じゃん。彼女がこんなになって喜ばないやついないんじゃね」

『〜〜っ、あ、くすぐった、もっと、やさしく、して!』

「わー、これなんて拷問だよ」

『んんッ、かる、まっ、も、やめて、も、い…でしょッ!』


ニヤニヤとする彼はもう一度携帯を取り出し、パシャリといい音がして「ごちそーさん」と笑った。ああもう、好きにしやがれ。


「で、原因は?」

『……多分、殺せんせー』

「うわ、あいつかよ。何されたわけ」

『頭痛で悩んでるって言ったら、薬作ってくれた』

「頭痛となんの関係もないじゃん」

『でも、飲んでからは痛くなかった』


もう何度目か分からない溜息を吐き出しては、耳に触る。えぇ、まぁ、一度は猫耳とかあったら可愛いんだろうなーとか考えたことあるよ!!でも現実になるのは!また別の話だし!もはや次元超えてる!


『いぁッ…!!』

「ふーん、尻尾もなんだ」

『カルマ!!』

「いーじゃん、こんままで。可愛いよ」

『そういうわけにいくか!ばか!ふざ、あっ、やめッ…あぅッ』


ヤラシイ手つきで何度も尻尾を撫でては、背中にツツーっと指を滑らさた。そしてそのまま押し倒され、耳元で吐息混じりに彼は囁く。


「そんな可愛い反応して、とりあえず犯させて」

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