―――「ま……さま、姉様ッ!!」
『っ、あぁ、ごめんなさい。つい見惚れてしまってたわ。大丈夫、可愛いわよ、ヨナ』
「本当に思ってる?…まったく髪が跳ねて仕方ないわ。亡くなられた母上はサラサラの黒髪だったのに。姉様の髪もサラサラ……」
『あら、私はヨナのふわふわの髪。大好きよ?とても似合っているわ』
「……それでも、私は嫌いよ…ちっともまとまらない!」
鏡の前でいつになく髪を気にするヨナ。その横で微笑むは私。ヨナの言葉に専属護衛のハクが喧嘩を吹きかけるも、ある一言によってヨナは部屋を飛び出して行く。
『ふふ、本当にスウォンが好きなのね』
「ユンリ様は行かなくて宜しいんですか」
『あら、おかしな事を言うのね。ヨナの邪魔なんてしないわ。そういう貴方こそ、行かなくていいの?』
「…行きますとも。専属護衛ですから」
『素直じゃないわねえ』
笑う私に何も言わず背を向け、歩き出す彼を見送り、こちらに顔を出すであろうスウォンを迎える準備をするように側の女に言う。
複雑そうにしている陛下に、苦笑いを零して私も身なりを整えようと鏡の前に立つ。一週間後はヨナの誕生日だ。
その為にスウォンも来た。ああ、楽しみだ。ヨナもついに16、大きくなったものね。これからの楽しさに、胸を踊らせ私はこの幸せがずっと続くんだと、何も疑わなかった―――
手摺の側から下の2人を眺める。真剣に弓を扱う姿は、さまになるものだ。不意にやって来たヨナはそんな2人を見て狡いと嘆く。
『仕方ないわ。久方ぶりに会ったんだもの』
「私もスウォンと弓やる!」
「な、なんだと!」
『無茶を言わないのヨナ。貴女に武器を持たせるなんて、陛下が倒れてしまうわ』
「そ、そうだぞヨナ!本当はあの2人にだって持たせたくないくらいなのに」
臆病、と口にするヨナに苦笑を零す。馬に乗らないかと誘われたスウォンに飛びつくよう、下に降りたヨナの表情は輝いていて反対に陛下の顔は曇っている。
『……大丈夫ですよ、陛下。ハクが側に居るんです。馬に乗るだけだし怪我なんてしないわ』
「だ、だが……」
『あまり心配し過ぎては、ヨナも息が詰まります』
そうか、と未だに心配の眼差しを向ける陛下にお茶をしましょうと中に誘う。ハクに目伏せをして陛下の腕を引いた。
―――数刻経ち、派手な音を立ててやって来たヨナは、私に抱きつきすぐさま嘆き悲しみの声を上げた。
『どうしたの、ヨナ』
「姉様!スウォンったら酷いのよ!私がハクと縁談があるという嘘を簡単に信じたの!」
「酷いのはアンタだ。そして迷惑だ」
『ハク。……まったく貴女も素直におなりなさいな』
「だってぇ〜!」
「お前の婚約は嘘にならんかもしれんぞ」
一際、真剣な声で放たれた陛下の言葉は、ヨナにとって衝撃だったようで弾かれるように顔を上げる。相手は陛下が選ぶ。その一言にヨナは反論するに対し、普段あまり声を荒げない陛下だが、それだけは聞いてやれない、そう頑なに首を縦には振らなかった。
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