『納得のいかないって顔ね』

「だって!あれから五日も経ったけど、やっぱり納得いかないわ!」


私の服を掴み、胸に顔を押し付けるヨナの頭を優しく撫でる。目に涙を溜めている理由、それはスウォンとのことを陛下に反対されたから。

ヨナは小さい頃からスウォンのことが好きだ。何故陛下は、あんなにも声を上げたのだろう、何か考えがあるからなのだろうけど……。


「…やっぱり、もう一度話してみる。どうしても諦めきれないって」

『ええ、そうね。伝えてみて悪いことは無いはずよ。私も一緒に言ってあげる。行きましょう』

「ありがとう、姉様!」


少し赤くなった目を細め笑うヨナは、私の手を取り歩き出す。手を繋いだのは何年ぶりだろうか、まだ、こんなにも小さい。私が守らないと。

話しながら歩いてる中、ふと違和感を感じた。……何故、誰ともすれ違わない?何故、こんなにも静かなんだろうか。ドクリと、心臓が鳴る。

なんだ、この変な胸騒ぎは。


『ヨナ、早く行きましょう。陛下が寝てしまうかもしれないわ』


不安を悟られないよう笑顔で、繋いだ指に力を込め、歩みを早める。心臓がやけにうるさい。いつもより長く感じた陛下の部屋の扉は開いていて、一層嫌な予感が胸を独占した。

私より先に扉に手をかけ、中へ入ったヨナに続く。


飛び込んできた光景に、目を見開くしか出来なかった―――


『へ、……か、…父上ッ!!!』


心臓を刺され、倒れる寸前に手を伸ばし抱きとめる。ヌル、その生あたたかい感触に全身の毛がよだつ。遅れて隣に来たヨナの手は震えていた。ゆっくりと顔を上げる。

不気味なほど無表情で私達を見下ろす、頬に返り血を付けた、スウォン。手には剣を握っていて落ちる雫は、真っ赤な血―――


『……説明、なさい。スウォン』

「い、医務官を、」

「無駄ですよ。私が殺しましたから」

『黙れッ!!!!』


今まで、スウォンに対してこのような怒声など浴びせたことはない。いや、スウォンに対しても誰に対しても。驚くスウォンを睨みつけ、聞こえてきた足音にヨナの手を握る。


入って来た人物はスウォンの側近の者のようで、私達を殺すよう命じたその男に、舌打ちを零した。手を伸ばしてきた兵士の足を、思い切り蹴り飛ばし隠し持っていた短剣で威嚇する。

倒れた男が誤って、壁の装飾に火をつけたその隙にヨナの手を引いて走る。置いていってしまうことを、お許しください……父上。スウォン…どうして、どうして、どうしてッ!!!


『どうしてなの、スウォン!!』


途中で横転した、ヨナにつられ足がよろける。急いでヨナを立ち上がらせようとするが、やはりただの女ではその一瞬で兵士達に追いつかれてしまう。

ヨナを庇うように、肩を抱きこちらに引き寄せスウォンを睨みつける。右手には短剣を。


『誰に剣を向けていると思っている!この裏切り者めが!!許されると思っているのか!!』


私の言葉にスウォンではなく、側の男が応える。


「許されるも何も、お前達の味方など居ない」

『ハッ、笑わせてくれるじゃないか。忘れたのか?私達の専属護衛の存在を』

「ほぉ、何処に居るのか教え願おうか」

『っ、こんな時の為に護身術を習っておいて良かったよ』


グッ、と短剣の柄を握りしめ笑って見せるが私の手は情けないことに震えている。しっかりしろ。何の為にソン・ハクから護身術を習ったと思っているんだ。


『近づけるものなら近づけばいいさ。順番にその腕を切り落としてやる』

「……やれ」


その言葉に、一人の兵士が剣を振りかざす。ヨナを後ろにやり、受け止めようと構えたその瞬間に引かれる腰。投げ倒される兵士。


『は、く』

「……今夜は、スウォン様がいらっしゃるから遠慮したつもりだったんですけどね。これは一体、どういう事ですか?…スウォン様」


私達の前に立ち、武器を構えるハクを見て安心したのか力の抜けた足や手や体はバカみたいに震えていて、嘲笑してしまう。

なんと、なんと弱いんだろう私は。




「―――ハ……ク」

「姫様!お傍を離れて申し訳ありません、ヨナ姫様、#name1#様」

「ハクは、私達の味方――?」

「っ、俺は陛下からあんた達を守れと言われている。だから何があっても、それに絶対服従する!!」


「控えよ、下郎ども。これより緋龍城の主となった、スウォン陛下の御前なるぞ」


「……誰が、何の主だって?どうも、嫌な予感がするんですがねスウォン様。イル陛下はどこにおられる?」



「私が先程―――地獄へ送って差し上げた」


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