―――地獄へ送って差し上げた
その瞬間に腸が煮えくり返るような熱さと、怒りが込み上げてきた。ああ、夢では無かったか。あの光景は現実であって夢なんかじゃない。
「真実を言えッ!!」
「偽りではない」
耳に響く金属音は、ハクとスウォンの攻防の音。満ちる殺気に、喪失感に、悲しみに、混乱に、思考が上手く働かない。
「王を弑虐しただと!?お前が!!あの優しい王をッ!!」
「スウォン様、ここは私が…!!」
「下がってなさい。近付けば首が飛びますよ。目の前にいるのは、緋龍城の要。五将軍の一人、ソン・ハクです」
ハクに圧されたスウォンが、少し後ろに下がる。すかさず、側の男が出ようとするがスウォンによって止められる。相手はハクなのだから、当たり前か。
「ハク!?」
「あいつが、高華の “雷獣” と噂される……」
「……なぜだ?王位の簒奪か?…いや、お前はそんなものに執着する奴じゃないだろう?武器を厭うか弱き王に刃を向けたのか?お前の誇りがそれを許したのか!?」
確かめるように、だけど嘘であってくれと、訴えるようにハクはそう言葉を投げかける。だが、無惨にも
「―――弱い王など、この国には必要ない」
『スウォン』
張り詰めた、空気の中、私の声でスウォンの足は止まる。ゆっくりとこちらを見たスウォンの瞳に表情に光は無くて、息が詰まる。
これが、あの優しかったスウォンなのか。
『…これが貴方の望んだことなのですか』
「……ええ、そうです」
『ヨナのこの姿を見ることが、貴方の望んだことか!!陛下を、陛下の命を貴方の手で終わらせることが!!本当に、スウォンの望んだ……こと…?』
「姉……様、」
「何度も言わせないでください」
『はは、そう』
見ていられなくて、思わず俯いてしまう。容赦なく降り注ぐ雨は、冷たくて。とても、冷たくて、冷たくなる父上の体を思い出す。叫びながら走り出したハクは、スウォンとまた剣を交える。嗚咽を抑えるように手の甲を噛むが、何の効果も無くて。
ねぇ、どうしてスウォン。本当にこれが貴方の望んだことなの?なら、どうして、あの時、ヨナの言葉に貴方は喉を詰まらせたの?
どうして、陛下の暗殺を見てしまった私達を殺せと言われ、すぐに行動しなかったの――!!!
どうし『ぁ…「待て!!そこまでだ」―ハク、ごめ、なさ』
突然、首に少しの圧迫と冷たい感触。しまった、捕まってしまった。チラ、とヨナを盗み見ても俯いて、震えるだけ。今暴れるとヨナをも危険に晒すだけ。
私の姿を確認するなり、舌打ちを鳴らしたハクは兵士の言う通りに武器を捨てた。
「スウォン……俺達が見ていたスウォンは、幻だったのか?お前になら、姫様を任せても良いと…思っていた」
「…あなた達の知っているスウォンは、最初から居なかったんです。道を阻む者があれば、切り捨てます」
『……スウォン』
私の声とほぼ、同じタイミンクでどこから飛んで来たのか、地に突き刺さる弓矢。
その好機をこれみよがしに使い、ハクを取り押さえていた兵、私を人質にしていた男をいとも簡単に投げ飛ばすハク。
ヨナを抱え、私をも抱えて走り出そうとするハクの腕をすり抜け走る。足の速さには少し自信がある。それにそこまで負担もかけられない。
矢を放ったのは、ミンスだった。ミンスの顔を見た瞬間に思い切り抱きついた。数回撫でてくれた背中に、全身に温もりを感じ、涙が溢れそうになる。落ち着け、今は泣く時じゃあない。
追っ手から逃げ、木によりかかるヨナの隣へ移動する。そっと手を握ると、弱々しくだが同じように握り返してくれた。
「…俺が、囮になります。ハク将軍とユンリ姫様ヨナ姫様はその隙をついてお逃げ下さい!」
『ミンス、何を言ってるの!!ダメよそんなこと!!』
「いいえ、ユンリ様。俺は大丈夫です。必ず、生き延びてみせますから」
『そんなの、そんなの、「任せたぞ、ミンス」 ハクッ!!』
そんなの嘘よ!!私の言葉を遮るハクを睨む。分かっている。全て分かっている。けど、けどこれ以上、
「#name1#様、ヨナ姫様、ハク将軍。どうかご無事で」
私の頬を撫で、微笑んだミンスは私の羽織を被って走り出した。ごめんなさい、ごめんなさい。
〜〜、ありがとう、ミンス。
涙を堪えるために、唇を噛み締める。門から抜け出し、最後に見た景色は、背に矢を受け倒れ込むミンスの姿だった―――
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