◎十一雫目


先輩の告白から早一週間。
福富先輩に話を聞いてもらって少しすっきりしたけど何も問題は解決していない。
しかし私にはどうすることもできないのだが。

「こんばんは。」
「こんばんは、新開先輩。」

先輩はまたお菓子をどっさりと持って現れた。
いつもありがとうございます。
ザバリとプールサイドに上がりお菓子パーティーを開催する。

「名前ちゃん。」
「なんでしょう新開先輩。」

いつもニコニコしている先輩が真剣な顔で目を合わせてくる。
嫌な、予感がする。

「尽八に名前ちゃんとのこと言ってもいいんじゃないか?」
「駄目です。」

それだけは駄目。
だって思い出して先輩に嫌われてしまうかもしれない。あんな酷いことを言ったし酷いことをしてしまったのだから当たり前だろう。
先輩に嫌いだと言われ手しまえば私は本当に泡にナってしまうだろう。

「でも今の尽八は見てられない。」
「……………どういうことですか?」

新開先輩はため息を吐いて話してくれた。
私にフられた東堂先輩は落ち込みに落ち込んだらしい。自転車に乗っていても心ここにあらず、いつものやりすぎなくらいするファンサービスもままならない。そしてとうとう今日、落車し怪我をした。
インハイメンバーかつエースクライマーである選手がこんな状態では他に示しがつかないと福富先輩も困り果てている。

「そんなに落ち込んでるんですか。」

だって先輩なんて引く手天数多選り取り見取りではないか。私なんかにフられたって…。

「やっぱりどんな尽八でも、名前ちゃんじゃなきゃ駄目なんだよ。」

そんなことを言われても今は慰めにしか聞こえないですよ、新開先輩。

「記憶がなくたって、心が覚えてるっていうのかな。
名前ちゃんと付き合っていたことを忘れていても名前ちゃんを好きな気持ちはきっと変わらないんだよ。」

突然ガチャリと扉が開く音がしてそっちの方を向くと、

「それ、どういうことだ…?」

東堂先輩が立っていた。



しおりを挟む