たれ目、爽やか、サーモンフライ

「お疲れ様でございます。蘭丸様、伊智子様、そろそろ食事休憩をとってはどうでしょうか?その間受付は私が担当いたしますので」



もうそろそろ20時にさしかかろうとする頃、小十郎がやってきた。
もうこんな時間だったのか。伊智子は思い出したように小さく鳴ったお腹を軽く押さえた。

「お疲れ様です、小十郎殿。それではそうさせて頂きます。行きますよ伊智子」
「はい!蘭丸さん!(ご飯…!嬉しい!)」

「……私がいない間に随分仲良くなったご様子で…この小十郎、安心致しました」

「蘭は先輩ですから、このくらい当然です。では、行って参ります」
「はい。本日はサーモンのフライだそうですよ」

「えっ!美味しそう…」

すれ違いざまに小十郎にそう言われ、口の中で味を思い出してると「もう!」と怒った蘭丸が伊智子の手をとり奥へと引きずっていった。

小十郎は驚愕したようにその光景を見ていたが、カウンターの向こうから「あの…」と控えめな声を聞くとすぐさま振り向き、「はい、お嬢様。いらっしゃいませ」と完璧なお出迎えをするのであった。





蘭丸と伊智子が給湯室へ入ると、休憩中らしい黒服の方たちがくつろいでいる最中だった。ソファーに2人座っている。

蘭丸はパッと手を離し、伊智子に「先にソファーに座っててください」というと、部屋の隅に設置してあるワゴンへと歩いていった。どうやらそこに食事が用意されているらしい。

しかしここで問題がひとつある。長いソファーは二つあるのだが(ひとつは他の人たちが使っているので、自分たちはもう一つのソファを使えばよい)テーブルが一つしかない。
二つのソファはテーブルをはさんで向かう合う形で設置されているため…そこに割り込むのはなんだか気まずい。

けれど仕方がないので、意を決して「お疲れ様です…」と言いながら向かい側のソファに座った。


「おう、お疲れさ…ん…」
「お疲れ様です!…あれ?はじめまして…でしょうか?」

パッと顔をあげた二つの顔にはなんだか見覚えがあった。
色白でものすごいタレ目な人と、短い短髪のさわやかな人。

そしてなぜかタレ目の人にめっちゃガン見されている。目、でかっ
突き刺さる視線に耐え切れず、逃げるように頭を下げた。


「はい、あの…新人の伊智子と申します…よろしくお願いします」
すると、タレ目の人はパッと顔を輝かせた。


「…ああ!あんたがあの新人の子か!よろしくな。俺は李典ってんだ。んで、こっちは」
「楽進と申します、よろしくお願いいたします!」

李典に促され、楽進もペコリと頭を下げながら言ってくれた。どうでもいいけどほっぺにご飯粒ついてる…
新人に対してとても丁寧な言葉を使ってくれる人が多いなあ、と思っていると楽進が「ときに伊智子殿、先ほどは災難でしたね」と声をかけてきた。
何のことか一瞬分からなかったが、李典が「そうだそうだ、俺たち、すぐ手出せなくて悪いな。ここ、大丈夫か?」と、自分のおでこを指でトントンしながら言ってきたのでようやく思い出した。
かくか先生に会いたくて仕方なかった患者様のことを言っているだ。

「…あ、私はなんともないんですけど…蘭丸さんがかわいそうでした」


「蘭のことなどどうでも良いのです。あなた、危うく顔に傷が残るところだったのですよ」


蘭丸が食事の乗ったトレーを持ってきた。伊智子はそれを受け取りながら、う、と小さく唸った。

「そうですよ!女人なのですから」
「まーでもあの客、ちょっと前からヤバい感じだったもんな。あー」
「蘭がもっとうまくやっていれば…不覚です」
蘭丸は食事の容器にかかっているラップを外しながらちょっと落ち込んだふうに言った。

「あー違う。そういう意味で言ったわけじゃないんだが…そんなに落ち込むなよ。そのために俺たちがいるんだから」
「はい…」


「…もしかして、あの後女の人を連れて行ってくれたのって李典さんと楽進さんですか?」


ようやく思い出した。この見た目、絶対そうだ。
伊智子がそう聞くと、李典はニヤッと笑った。

「あの客のテンパりよう、スゴかったろ」

楽進も「またなにかあったら必ず私達黒服が手助け致しますので、ご安心ください!」と言った。

「はい!ありがとうございます!!頼もしいです!!」

伊智子もようやく食事に手をつけた。サーモンのフライ、美味しい!!!



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