学生アルバイト


食事も大分片付いた頃。一足先に完食した蘭丸が、トレーをワゴンに戻しながら言った。

「では、蘭はお先に失礼します。伊智子、21時前には受付に戻ってくださいね」


「はい…ってえ?蘭丸さん、帰っちゃうの?」
「明日も学校がありますので」

「…学校?」

蘭丸の口からでてきた言葉に伊智子は驚きを隠せずにいた。
何を驚いてるんです、と蘭丸は少し呆れ顔だ。

「蘭は伊智子のひとつ年下だと言ったではないですか」
「年下…そっか!高校生なんですね!高3?」
「はい」
「へえ…どこに通っているんですか?」
「織田高校です」
「へえ…って え!?オダ!?織田高ってあのオダ!?あの…超がつくほど有名な名門私立でセレブ達が数多く通っているっていうあの…?」
「あなた…割とミーハーなんですね。後者の真偽はわかりませんが…。蘭は織田高に通っていますよ。ここには社会勉強の一貫でアルバイトさせてもらっているのです」



「すっごい!蘭丸さんって、頭いいんですね!しかもアルバイトもしてるなんて…えらい!すっごくえらいです!」



伊智子が興奮したように言うと、蘭丸は急に顔をカッと赤くさせた。
恋する乙女のようにモジモジしだした。

か…可愛い…。
さっきまで私の頭をはたきながらパソコンの使い方を教えてくれてた時とはえらい違いだ…。

「ら、蘭は…えらくなどありません。当たり前のことです」


「そんなことないです!えらい!立派です」


ニコニコと笑いながらそう言うと蘭丸は困ったように眉を下げ「は、はい…ありがとうございます」と言った。
そんな蘭丸を見かねた李典が「あ…あー蘭丸。そろそろ帰らないとヤバいんじゃね?時間」と言うと、蘭丸はハッとして

「あ、ほ、本当ですね、では皆さん、お先に失礼致します」
「おう、お疲れさーん」
「お疲れ様でした!お気をつけてお帰りください!」


「蘭丸さんお疲れさまでした!明日も学校頑張ってくださいね!」


伊智子はひらひらと手を振りながら言った。
「はい…ありがとうございます。伊智子」蘭丸はそう返し、逃げるように給湯室を後にした。




蘭丸のいなくなった給湯室で、李典が「蘭丸め…ウブだな」と呟く。
伊智子と楽進は揃って首をかしげたが、2人のその様子を見て李典はますます面白そうに笑った。







「蘭丸さん、学生なのにここでバイトしてるなんてえらいですね」
「まーな。でも俺らも身分でいえば学生だぜ?」
「え?」

中身がきれいになくなったトレイをワゴンにもどしながら伊智子が言うと、スマホをいじっていた李典がそう言う。
それに続き、ダンベルで筋トレしていた楽進も頷いた。(どこにダンベルおいてあったんだろう…)


「私と李典殿は同じ大学に通っていて、今は大学2年生なのです」

「えっ!そうだったんですか…あ、お茶飲みますか?」


まさかの事実に驚きながらそう聞くと、二人とも頷いた。

やかんにお水をいれていると後ろから李典が

「だから年齢は伊智子のひとつ上だから、あんま変わんねぇな」

と言った。伊智子は年が近いことに嬉しくなり、

「そうなんですか!なんか嬉しいです」と言いながら笑った。

すると何故か楽進はダンベルを足に落として声にならない悲鳴を上げていたし、
李典は
「…伊智子って彼氏いる?」
などと謎の目つきをして聞いてきた。
いないです。





- 18/111 -
学生アルバイト
*前 次#

しおりを挟む
小説top
サイトtop