小十郎の誘惑?
食事休憩が終わらせ、受付に戻るとちょうど人が空いている状態だった。
書類の整理をしていた小十郎と目が合う。

「片倉さん、すみません、遅くなりました」


「いえ、時間ぴったりでございますよ。5分前には戻ってくるかと思いましたが、想像以上に皆様となじんでおられるようでこの小十郎、安心致しました」


「はひい…すみません…」

めっちゃ怒ってる…
伊智子はペコペコと頭を下げながら椅子に座った。


伊智子が椅子に座ったのを確認すると、小十郎は伊智子と向き合った。

「では伊智子様、ひとまず21時台の予約状況の確認をお願い致します」

「はいっ、わかりました」

小十郎にそう言われ、さきほど蘭丸にみっちり教え込まれた操作でサーバーにアクセスする。

予約一覧の項目をクリックし、ずらりと並んだ医師の名前を確認していった。
「ええと…21時15分から担当医朱然さんご予約延長なし…21時半から担当医姜維さんご予約…あ、延長がありますね…」
モニターを見ながら予約状況を確認していく。

「同じく21時半から延長なしで真田信之さんご予約、上杉景虎さんご予約、延長あり…21時40分…鐘会さんご予約、延長ありません…えっと…あとは…」
「その辺りでもう結構でございます」

そう言った小十郎は少し意外そうに呟いた。

「……伊智子様は意外にも物覚えが速いのですね。感心致しました」

「蘭丸さんの教え方が良かったのかもしれません、えへへ」

さらりと嫌味を言われたことに気づかず、ヘラヘラ笑っていると余計なところを押してしまったようで、隣の小十郎から静かに突っ込まれる。

「……上機嫌なところ申し訳ございませんが、早速間違えております」

「ええ!?あっ!本当だ!すみません!」

調子に乗っているとクリックする場所を間違ってしまった。慌ててマウスをカチカチ鳴らす。
予想外の出来事に伊智子があれ?あれ?とワタワタしていると、小十郎はハァと大きなため息をこぼして、椅子に座ったまま伊智子にぐっと近づいた。


「わっ…」
「…このボタンを押せば前画面に戻れます」


マウスを持った伊智子の手に小十郎の大きな手が触れ、そのままゆっくりマウスをスライドさせた。
椅子の背をはさんではいるものの、2人の体はとても密着している。
伊智子の小さい背をすっぽりと覆い隠すような体勢で近づいていたのだった。
体格差がありすぎるので後ろから見るとまるで小十郎一人が謎な体勢でパソコンを操作しているようにしか見えない。

完全に不必要な密着なのだが、小十郎はさらにぐっと距離を近め、伊智子の肩に口元を寄せて囁いた。



「…ほら、簡単でしょう?」




「わっ!本当ですね。ていうか、戻るって書いてある。ありがとうございます!片倉さん!」



くるっと振り向いた伊智子は明るい顔でそう言った。
何故か急に小十郎の顔が近くにあることにも気づかずに。
「…片倉さん?」なぜか無表情のまま微動だにしない小十郎を不思議に思った伊智子が小十郎に声をかける。

すると、小十郎はパッと手を離し、体勢を戻して眼鏡の位置を指で直しつつ椅子をがらがら言わせながら元いた場所へと戻った。



「…いえ。覚えておいてくださいませ」


「はい!!」


「…ご無礼ながら…声が少々大きいかと…」



「あっ、すみません…」




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