金色の落し物
受付を閉めてから数分。
小十郎に言われたとおりのことは済ませた。

「…これでいいかなぁ…なんか暇だし、休憩室の掃除でもしようかな?」

なんとなく手持ち無沙汰になってしまった伊智子は、休憩室を軽く掃除でもするかと思い立った。

「たばこの吸い殻とかもすごかったよね。とりあえず、ごみを袋にまとめるだけでもしておこう」

換気扇のところにおいてあった灰皿は人の頭を殴り飛ばせるくらいの大きさがあるにも関わらず、いつから放置されていたのかわからないくらい吸い殻が山盛りになっていた。
ごみ箱もごみが入りきらずにこぼれていたし、まとめるだけまとめてしまおうと思ったのだ。


そうと決めれば休憩室に向かう。
受付はもう閉めたし、新しいお客様がいないからもしかしたら誰かいるかもしれないけど…と思い、休憩室へとつづく扉を開けた。






「あれ…誰もいない」



想像とは違って休憩室には誰もいなかった。
ただ音を鳴らして回る換気扇と充満する煙の匂いが、さきほどまで誰かがここいたということを物語っている。

まあ、誰もいないなら誰もいないで掃除がしやすい。

さっそく床に落ちていたコンビニのビニール袋に灰皿の中身を入れていく。一気に袋が満杯になり、思わず「うわっ」と声があがる。
こういう掃除、今まで誰がしてたんだろう。一応受け付け兼雑用として雇われたからには、掃除とかもきちんとしていかなくては…


ドサッ


そんなことを考えていた時、確実にこの部屋の中から音が聞こえた。

誰もいないはずの部屋。なぞの怪奇音に伊智子の肩は大きく跳ねる。

「な、なに!?今の音…なに…!?

バクバクと心臓を鳴らしながらゆっくりと後ろを向く。も、もしやおばけとか…!!怖い…!!
恐怖を感じながら振り向いた先。そこには誰もいない――はずだった。


「…え?」


しかし、視線の先。
机をはさんで設置されたソファのむこうからこちらを覗くもの。
なんだろう……金色?のなにかが見えた。
おそらく、見間違いでなければあれは人の髪の毛。もしかしたら、さきほどの音はソファーから落ちた音だろうか?
ソファの影になってたから、さっき部屋に入ったときは存在に気づかなかったのかな。

とりあえず怪奇現象でなければ良かった。洗おうと思っていた灰皿をシンクに置いて、伊智子はあわててその物体へと近づいた。




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