いけない子
「あっ、あの〜… あれ?寝てる…」
覗き込むと間違いなくそれは人間だった。しかし寝ているのか、声をかけても返事がなかった。
綺麗な金髪が印象的なその人は、目を閉じて浅い呼吸を繰り返している。
ソファから落ちても目を覚まさないくらい疲れていたのだろうか…。
ていうか…
「すっごい…酒くっさ…」
思わず鼻をつまむ。
マジでくさい!
なんかこの人の体全体、毛穴全てからアルコールがウワ〜ッて出てきてる気がする。
匂いだけでも酔ってしまいそう。仕事中にお酒飲むっていうことは、黒服ではなく医師の方かな…。
ていうかこの人、大丈夫?
こんなに匂うってことは、たくさんお酒飲んだってことだよね?
お父さんが昔、仕事の飲み会でべろんべろんになって帰って来て家の玄関でパンツ一枚になった時もこんな匂いがした。
無事だろうか。起こしてお水飲ませたほうがいいかな?
そんなことを考えていると、目の前の人がゆっくりと目を開ける。
あ、起きたのかな。
「あの…大丈夫ですか?あなた、ソファから転げ落ちてましたよ」
「………」
金髪の男の人はぼんやりとした顔で瞬きを繰り返した。無視か?
人の話聞いてんのかな?と思いつつもう一度話しかけてみる。
「あのー、お水のみます?ていうか起きれますか?」
「あなたは……」
「わっ」
男性はようやく意識がはっきりしてきたようで、ゆっくりと言葉を呟く。
そしてふらふらと片手をこちらに伸ばし、伊智子の頬にそっと触れる。
「えっと…?」
そのままじっと見つめられる。
どうしよう。まだ酔ってんのかな…。
つやつやした金髪は蛍光灯の明かりの下でも美しく光っている。
お酒をたくさん飲んだはずなのに、陶器のような肌は化粧品のCM女優のようだ。
そのうえ、目だけは潤んでいてなんだか色っぽい。やけに熱っぽく見つめられてるし。
形のよい唇は薄く色づいて、とても整った顔だということがわかる。
自分を見つめてくる顔をまじまじと観察していると、今まで伊智子の頬に触れていた手を頭の後ろに移動させ、ぐっと下に引き寄せた。
「ぎゃっ」
顔が今まで以上に近づく形になり、もうすこしで鼻の頭同士がくっついてしまいそうだ。
「いけない子だ…こんなに私をじらして」
「は!?」
いきなり頭掴んだと思えば何言ってんだこの人!?
離れたいのに頭を固定されているからか体がびくともしない。
筋肉ありそうに見えないのに…なんでこんなに力が強いんだ…。
ていうか…あの…顔が近いから息が…ダイレクトに…
「ちょっ…何のつもりですか!?やめて!すごい酒くさいこの人!はなれろ!」
「おやおや、照れ隠しのつもりかな?」
「ひ、人の話聞いてない!こわい!助けて!こ、小十郎さーん!!」
「………あなた方、なにをやっているのですか」
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