馬と馬


クリニックMOには大きなフロアがある。



そこはたくさんのソファやテーブルがおいてあり、飾られている調度品や花もセンスがよくとても高価なものばかりだ。(これは秀吉の趣味だそうだ)
そんな場所を普段どのように使っているのかというと、患者との診察の場に使われるのだ。

基本、「伊」と「呂」の時はここで診察を行うことになっている。
恋人のように密に触れ合う必要がないし、オープンな場のほうが都合が良いのだ。
医師と患者はここで診察を行い、お話したり、クリニックオリジナルのフードやドリンクメニューを一緒に食べたりしてその心を癒していく。

昔は全てのメニューで個室での診察をしていたが、そうすると監視の目がないため客が無理やり医師に迫り、設定以上のことを要求することが相次いでしまったのだ。
そのため、安全面を考え黒服や他の医師の目が届く範囲での診察を、とこのような場所を使用することになった。

(ちなみに、「波」メニューの時は、逆に患者が人目を気にするため完全個室での診察を行っている)



診察時大勢の医師、そして患者を着席させる必要があるホールは十分な広さがあり、診察以外では毎日朝礼と終礼の場所としても使われている。


ソファ、テーブルの間を縫うように進む張苞に置いてかれないように、また毛足の長いじゅうたんに足をひっかけて転ばないように気をつけて進む。

視線の先に大勢の従業員の姿が見えた。伊智子はなんだか緊張してドキドキしてしまう。



「小十郎!遅かったではないか!」



大きな声が響く。自動的に大勢の視線がこちらに向いてメチャメチャびっくりする。
小十郎は後ろで
「申し訳ございません、郭嘉様が少々駄々をこねておりまして…」
と言っていた。

「おや。人のせいにするなんてひどいな」

小十郎はこの発言を無視した。




伊智子は初めてこのフロアに足を踏み入れたが、すべてがキラキラしていてとてもまぶしい。
でも、よく見れば区画ごとにソファのデザインやインテリアが落ち着いたところや雰囲気の違うところがあって、そういうところにも患者様の要望に応えるための工夫がこなされているのだなと思った。

スーツを着た集団に向かってずんずん進む。


「…ん?あ!お前が朝に聞いていた新人だな!」


すると、先ほど大声を上げた男が勢いよくと近づいてくる。
なんかすごく足が長いから距離のつめ方が尋常じゃない…。
瞬く間に真正面に立たれて息が詰まる。


「…っ」
「俺は馬超と言う!医師だ!よろしく頼む!お前の働き、期待しているぞ!」


高い位置からそう言われた。
馬超と名乗った男は髪の毛が銀色で、シャンデリアの照明が反射してきらきらと輝いているようだった。
髪の毛は後ろに撫で付けていて、仕事終わりとは思えない元気の良さがあった。てか声が本当にでかい。
それに加えとても体格がよく、服の上からでも分かるくらい、なんか…つよそう…。


「はい…伊智子です…よろしくお願いします…!」

「…ん?なんだ?」
ぽかんと口をあけながら見つめていると、視線を感じた馬超は疑問の声を上げる。
やばい、怒られるかな。


「いえ、あの…背がおっきいなと思って見てました…すみません…」

「!」

そう言われた馬超は、驚いたように目を見開き、そしてすぐ得意げに胸を張り嬉しそうに言った。


「…そうか!まあ、お前は小さいからな!俺のような背のでかい美丈夫に見惚れてしまうのも仕方ないだろう」

「え?あ…はい…」

え…美丈夫…?
なんだか口にだしてないことまで言われたような気がするが、怒られないだけよかった…。
そうホッとしていると馬超の後ろから新しい顔がでてきた。


「そこまでは言ってないんじゃないの?若ってば喜んじゃって」


外国映画に出てきそうな目鼻立ちのはっきりした顔の男の人は、馬超のことを「若」と呼び、ややオーバーな表情をしていた。そこがまた映画にでてきそう。
その男は馬超から伊智子に目線を移すと、パッと顔を明るくさせて言った。


「やあ!俺は馬岱。若の従兄弟で、俺も医師をやってるんだ。よろしくね」


なんとも陽気な人だ。にこにこと笑う顔には嫌味がひとつもない。友達多そう。
よろしくね、と笑顔で言われて伊智子もつられて笑顔になる。


「はい!伊智子っていいます。よろしくお願いします、馬岱さん」


伊智子はそう言って頭を下げる。馬岱はなんだかじ〜んとした様子で再び口を開いた。


「いやー、ここってば男ばっかりでむさいったらありゃしないもの、君みたいな可愛い女の子が入ってくれて嬉しいよ!よかったら仲良くしてくれると嬉しいな!」

「え、あ、は、はい!こちらこそよろしくおねがいします?」

普通のいい人だと思ったけどやっぱなんか変わった人だった…。



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