悲しい結末


「皆!集まってくれ!終礼を始める」

大きな声がフロア全体に響き渡る。

馬岱とのおしゃべりはそこで終わり、伊智子たちは集団のなかにまぎれこんだ。

「本日は三成殿が打ち合わせ参加でご不在であるため私張遼が進行を担当する」

あごヒゲがよく似合う男性がそう言って、書類を読み上げながら今日仕事中にあったことや連絡事項などを言っていく。


「石田さん、まだ帰ってきてないんだ…」
「さみしいの?」

独り言を馬岱さんに拾われて少しおどろく。

「いえ、どちらかと言うと事あるごとに怒られるから少しホッとしています…」

「え?アハハ、伊智子って面白いね」


「ご安心ください伊智子様。三成様の代わりに小十郎がおりますゆえ、お説教はお任せくださいませ」
ポン…と後ろから肩を叩かれて喉がヒュンと鳴った。もういらんことは言わないようにしよう。


「最近増加している迷惑患者についてだが…」

伊智子はパッと顔を上げた。

「本日は郭嘉殿の担当患者が受付にて目に余る行動を起こした為、やむを得ず確保に至った。今後の処置については、当クリニックの利用を永久に禁止、当従業員への接触禁止、会員登録時の規約違反につき違約金の支払いを命じた。これを破った場合には法的措置に入るとの通告済みだ」

周囲が重々しいため息をつき、ざわつきはじめた。


「徹底的だな」

馬超が苦々しい顔で言った。

「でも、そうしないとまた繰り返しちゃうからね」
いくらお客様でも甘い顔はしてらんないのよ。と馬岱は諦め顔だ。


受付で必死に郭嘉さんに会わせてと叫んでいた女の人の声が忘れられない。


「あー、ひとつスイマセン」


ざわめきのなか、李典さんが手をあげた。

「李典です。怪しそうな客には俺らも注意深く監視していますが、「波」で入られると俺らもフードの配膳や会計なんかの時にしか部屋に入れません」

楽進さんも「ハイッ!」と勢いよく手を上げた。よい子か。いきなり隣で手をあげられて李典さんがちょっとビビってる。

「楽進です!最悪の事態を避けるため、お客様の様子がおかしい時はどんな些細なことでも構いませんので私たちに報告をお願い致します」

「うむ…李典殿と楽進殿の言うとおり。「波」のお客様はクリニックにとっても上客であることには違いないが、なにより大切なのは従業員たちの安全だ。何かあってからでは遅いのだ。よろしく頼む」

まばらな返事が聞こえ、張遼という男は頷いて次の報告へうつった。




…あの女の人は郭嘉さんのお客様のはず。
なんとなく郭嘉さんを見ると、感情の読みにくい顔でうっすら微笑み、張遼さんの話を聞いているだけだった。

「……」

最後はあんなふうになってしまったけど、でも、確かに自分の患者さまとして触れ合ってきた人のこと、なんとも思わないのかな?と、少し思ってしまった。


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