迷子の救世主
張遼、李典、楽進らと別れ、自分も部屋に戻ろうと階段を上った。

確か、階段をいくつか上ったり降りたりしたような…と、おぼろげな記憶を頼りに進んでいくと。




「…………あれ?ここどこだ………?」



…やばい。非常にやばい。




見事に知らない場所へたどり着いてしまった。



これは…いわゆる…迷子。



どうしよう。とりあえず1階に戻って… と、途方に暮れていると。


「おや。そちらにいらっしゃるのは…」


背後からとても優しい声が聞こえた。
伊智子はハッとして振り返る。天の助け!



「貴方は…伊智子殿…でしょうか?」


振り返ったそこには、黒髪の優しそうな青年が立っていた。
伊智子はこの青年に始めて会うが、自分の名前を知っているということは先ほどの終礼の場にいたのだろう。


「そ、そうです!あの…」

「?どうかなさいましたか?」


かすかに首をかしげる。
男の人なのになんか可愛いよ…。


「えっと…実は道に迷ってしまって…泊まってる部屋に戻りたいんですけど」


恥を忍んで告白する。そう言うと、青年は笑いもせずに「そうでしたか」と優しい声で言った。


「では私がご案内致しましょう」



「ほ、本当ですか!ありがとうございます…!」


仕事終わりで疲れているはずなのに、なんて優しい人なんだ…。
未だにこにこと微笑む青年に「お名前は、」と聞こうとしたところにひときわ大きな声がかぶさる。



「幸村!どうしたのだ、このようなところで」



「兼続殿」

新しく現れた男性は、きりっとした眉毛に少しぶ厚い唇が印象的な人。
この人も、仕事終わりだというのに大きな声でとても元気だなあと思った。



「伊智子殿が道に迷ってしまったそうで、今からご案内するところだったのです」

「おお!お前が伊智子か」


すると、唇の厚い男性はパッと伊智子のほうを向いて顔を輝かせた。
そのまま伊智子の肩に手をかけて、(ちょっと体重を感じるほどに)ハキハキと喋り出した。


「私は直江兼続と言う!私もここで働いている医師なのだ。これからよろしく頼む!」
「は、はいっよろしくお願いいたしますっ」

勢いに押されるように挨拶をする。
ちらっと幸村を見ると、ほほえましそうにこちらを見つめていた。


「私は真田幸村と申します。黒服として働いておりますので、何かあればいつでもご相談ください」


そう言ってにっこりと笑う。

「はい、その時はよろしくお願いします」

そう言うと幸村はまた笑った。



伊智子の目の前に現れた二人の男性は、少しタイプが違うけれどとても仲が良さそうに見えた。
とても優しいし、仕事もできそう。仕事でお世話になるときは、ぜひぜひよろしくお願いしたい…。


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