ようやく目的地へ




ほんの少しの廊下をすすみ、階段を上った先はなんだか見覚えのある場所だった。


フロアに足を踏み入れて、幸村はくるりと振り向いた。


「私たちが住んでいる部屋は階層を2つ使っていて…ここが黒服の階層です」

「ひとつ上の階が私たち医師の部屋がある階だ。部屋の空きはなかったはずだから…伊智子の部屋はここなのではないか?」

そういう仕組みになっていたのか。
兼続の言うとおり、伊智子はここを歩いた記憶があった。
三成に急かされ、息つく暇もなくこの廊下を走った記憶がある。思い出したらちょっとムカついてきた…。


「ありがとうございます…私の部屋、この階にあります!」

「ではお部屋までお送りしましょう」

願っても無い申し出にすこし申し訳なさを感じるが、有難い。
兼続は安心したように頷いた。


「うむ。幸村、頼んだぞ。私は部屋に戻ろう。伊智子、幸村、ゆっくり休めよ」


「はい、おやすみなさいませ、兼続殿」

「ありがとうございます!おやすみなさい!」


2人揃って頭を下げる。兼続はそのまま階段を上がっていった。

上の階が、医師のみなさんが使っている部屋…。
政宗にいちゃんも、そこで暮らしているんだろうか。



「伊智子殿。伊智子殿の部屋はどのあたりでしょうか」


ずらっと扉が並ぶ廊下で、幸村がそう言った。
確か私にあてがわれた部屋は…

「端っこでした」
「ではこちらですね」

幸村の後ろをついて、廊下を進む。


ホテルのように並んだ扉を見ていると、中からなんだか物音が聞こえてきたり、扉の下に少し空いた隙間からこうこうと明かりが漏れていたりした。
勤務の終わった人は、皆自室に戻って思い思いに自由な時間を楽しんでいるのだろう。


いくつもの部屋を横切ってたどり着いたところは、一番奥の一番端っこ。
確かにここだった。かすかな記憶を思い出す。


「あ!ここです!ありがとうございます、幸村さん」

「いいえ。ちなみに、階段から見て右側の一番奥の部屋が私の部屋ですので、何かあればいつでもお尋ね下さい」
「あ、ありがとうございます…」

幸村さんの底なしの優しさに目が溶けそう。

「…幸村さんって、兼続さんとかから「騙されないように気をつけろー」とか言われません…?」
「?いいえ…あ、でも三成殿からは何かと心配されますね…」

そんなに私は頼りないでしょうか。と言う幸村。


「石田さん…?」


三成の名前が出たことに伊智子は無意識で怪訝な顔をしてしまったらしい。幸村はくすりと笑って言った。

「私と三成殿と兼続殿はよく話すのですよ。気質は皆違いますが、不思議と話が合うのです」
「えっ、あんな厳しい石田さんと、優しい幸村さん、兼続さんが…?」

いじめられたりとかしてないかな?と思っていると、幸村は「三成殿はとても優しいですよ」と微笑んだ。
いや、あなたが世界一優しいです…。


「伊智子殿、私の部屋の隣は三成殿の部屋ですよ」

なんか教えてくれた。

「ええ…そこ通るときはうるさくしないように気をつけます」


「ははは!伊智子殿は面白いですね。では私はこれで。伊智子殿、おやすみなさいませ」


「はい!色々とありがとうございます。おやすみなさい、幸村さん」




幸村にあいさつをして扉を閉める。


「幸村さんも、兼続さんも、ほんといい人だ…なんで石田さんと仲良しなんだろう……」


誰もいない部屋でぽつりと呟いた。



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