悪夢再び



スーツを脱ぎ、ハンガーにかける。

ポッケに手を入れると、三成から借りたくしが入っていた。
なくしたら大変だ。机の上に大事に置いておくことにしよう。

ベッドの上には着替え一式がたたんで置いてあった…。ねねさんがしてくれたのだろう。
深い気遣いに心が温かくなる。いつか絶対に恩返ししなくては。


そう思い、浴室に進む。

お湯をためている間、シャワーで体を洗い、浴槽が半分くらい溜まった頃、ゆっくりとお湯に体を沈める。



「ふう………つかれた」



お湯をばしゃばしゃしながら顔を濡らす。


今日も、昨日も、すごくすごく色んなことがあった。


数日前まで、自分がこんなことになるとは夢にも思っていなかった。

不幸のどん底にいたし、今も正直吹っ切れてはいないけれど。



「…私、がんばるね、お父さん、お母さん」



だから見守っててね。



じわっと浮かんだ涙を拭い、眠たくなった体に鞭打ち勢いよく浴槽を出る。

寝巻きに着替え、急いで髪の毛を乾かすと、清潔なベッドへともぐりこんだ。


「ふあ……明日…朝起きて…買い物行きたいな…」


一人ぼやいたが、そういえばお金持ってないわ。ということに気が付いた。

生きる資格を手に入れたと思ったが、まだまだまともな人間には程遠いことを改めて認識してしまった。



「………寝よ」



布団をかぶり、まあ明日のことは明日考えればいいか。なんて思って。

一日の疲れもあり、伊智子はゆっくりと意識を手放していった…。








それからどれくらい経っただろうか。

深い眠りについていたが、どこからか聞こえるかすかな物音に目が覚めてしまった。


「……?なに…?」


バン!

荒々しく扉を開ける音。

ドスドス……

床を踏み鳴らし部屋を歩く音。

ドサ!!

ベッドに勢いよく倒れこむ音……。




「ま、まさか…」

寝ぼけていた意識がだんだん覚醒していく。
これは、まさか、まだ記憶にも新しい、昨日の―――





『キヨマサ……』




「……今日もお元気ですね……」

耳をふさいでいても艶っぽい声が響く。
布団をかぶり、耳をぎゅっと押さえても悩ましげな物音が聞こえてくる。

ああ、今、一体何時なんだろう。

朝起きる目標は達成できそうにない。


勢いを増す物音に若干イライラを覚えながら、伊智子はギュッと目を瞑り、どうにか眠れないかと四苦八苦するのであった。

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