どう…せい?



「あのー、こういう集まりは何回もやってるって言ってましたが。いつも李典さんの家に集まってるんですか?」


「ああ、ほとんどが実家住みだからな。さすがに日付が変わってからの集まりはいい顔をされない」

伊智子の疑問に応えたのは関平。近くにいた楽進も、申し訳なさそうに頷いた。

「私は一人暮らしですが、アパートの壁は薄いですし、こんな大人数はちょっと」
「…一度上杉兄弟の家で開催したことがあったが…」

関平が気まずそうに景勝、景虎のほうを伺った。
話題にあがった二人は、いやなことを思い出したかのように眉をひそめ、景虎は「その話な!」と、酒のなみなみ入ったコップをドンッと机にたたきつけた。…酔ってる?


「次の日メッチャクチャ苦情がきたんだ!深夜にはしゃぎすぎだって。それからはコイツら、出禁!!もう少しで実家にまで連絡いくところだったし!」


「そこまで薄い壁ではないはずなのだがな…」


どんだけ騒いだんだこの人たち。想像するのも怖い。あの景勝でさえ苦笑いだし。
伊智子が一人ゾッとしていると、近所迷惑なんてお構いなしの陽気な声が響いた。

「その点李典ちは最高だよ!壁は厚いし家も丁度いい場所にあるし!」
「男がこんなに集まっても体を伸ばして眠れるのすげえよな」
「キッチンも一人暮らし用にしては広くて使いやすいんだよなあ…」

「ああ、ここ一応二人暮らし用だから」

李典の言葉に空気が一瞬止まる。
伊智子も同様に、そうだったのかと驚きの声をあげた。

「へえ、そうだったんですね」

「…どうりで広いわけだよ…」
「なんでまた。家賃高ぇだろ」
「だから防音もしっかりしてんのか」


暗に「一人暮らしには無駄」と言いたげな面々を前に、李典は酒を一口飲んで、それから。


「同棲してた彼女と別れちまってそのままなだけだよ…それに、また彼女できたら一緒に暮らしやすいだろ」

「………は?」

ケロッと言い放つ李典に冷ややかな視線が突き刺さる。

伊智子が地味に引いていると、隣の蘭丸はもっと引いていた。
日ごろから色んな大人たちを見て育っている蘭丸の将来は安心かもしれない…。


「そ、そうだったのですか!?李典殿!」と、純粋に驚いていたのは楽進だけ。

「ざっけんな李典!たまり場がなくなるだろうが!」と朱然。
「ここがなくなったらどこで集まればいいんだよ!」と張苞。
「うちで働いてる間はぜってー彼女つくんな!ムカつくから」と景虎。

…見事に非難轟々で、景虎に居たってはもはや悪口である。


「おい!お前らもう二度とうちに上げてやんねえぞ!」


やかましい面々に好き勝手言われた李典は酒のせいなのかわからないが、顔を赤くして怒鳴った。

ギャーギャーと騒ぐ男たち。
本当にこれだけ騒いで苦情がきてないのか甚だ疑問ではあるが、楽しそうだからまあ良いか。


「…ねえ兄上。私も、父上に一人暮らしを願い出てみようと思うのですが」
「…やめておけ」
「だめですか」
「だめだな」

騒ぎの向こうで関平と関索がこっそりとそんな話をしていた。
関索の一人暮らしって、実質一人暮らしにならないのでは。兄の関平はそう思っているのだろう。
うん、私もそう思う…。いつの間にか知らない女の人が住み着いてそう。伊智子はそんなことを思った。



未だにわいわいと騒ぐ李典たちをボケーッと眺めていると、さっきからすごいペースで飲んでいるのに顔色の全く変わらない朱然がケロッとした顔で言い放った。


「ていうかさ、女と住みてーなら伊智子でいいじゃん」

「は?」
「ええ…?李典さんと住むの?やだ」
「クッ…住まわせてやるなんて一言も言ってねえし……っ」

伊智子が素直な気持ちを吐き出すと、李典は屈辱的な顔でそう搾り出した。

ビルに住んでいたほうが、ねねさんの美味しいごはんを毎日食べられますからね!と言うと、李典は「あっそ…」と呟いてうなだれた。


「実際伊智子が「李典さんと住むことにしましたあ〜!」とか言い出したら卒倒する奴出そうだけどな」

李典の様子を面白そうに見ていた朱然が伊智子の声真似付きで言った。
どうでもいいが、私の喋り方はそんなにアホっぽくない!伊智子はこっそり憤慨していた。

「まずねねさんは確実だな。あと政宗と、三成も」

「政宗に殺されるんじゃない?」

「儂の伊智子に手を出しおって!みたいな」


本人のいないところでどんどん話が膨らんでいく。
どうやら伊智子がビルを出て行った時の話をしているようだが…


「政宗にいちゃんはともかく…石田さんは部屋がひとつ空いて好都合くらい言ってくると思いますけど…」


実際に「いてもいなくても変わらん」と言われているし、あの石田さんがありえません。
とキッパリ言うと、皆一様に口をポカンと開けて固まった。
関興は箸から食べ物をこぼしていた。そんなに驚くことですか?


「……伊智子。それ、本気で言ってんのか?」
「え?は、はぁ…」


若干引き気味の張苞に頷くと、周囲からはハァーー……と深いためいきがこぼれた。

「あなたって人は…」
「わ、私なんか変なこと言いました!?」

蘭丸でさえもあきれ顔で伊智子を見ていた。なんだよ!


「…三成殿も損な性格ですね」
「お前にくらべりゃあな、陸遜」

「徐庶殿もしばらくは仕事にならなさそうですね」
「夏候覇だって多分泣くぞ…かわいそうに」
「もしかしたら信之殿も抗議にいらっしゃるかもしれません」


「み、みなさん何を言って…」


「蘭丸は一週間口を聞きません」
「ええっ…?!」
「李典殿と」
「おい!なんでだよ。おい伊智子、絶対うちには住まわせねえからな」
「なんですか!?住みませんよ!」


謎の話題で盛り上がった飲み会はまだまだ続きそうだ。
ていうかビルを出て行く予定なんてこれっぽっちもありませんからねー!
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