共闘関係、成立。


「はあ、はあ、……っげほっ」

俺に腕を引かれて走るフレディが後ろで咳き込んだ。俺は背後をちらりと見て追っ手がないことを確認し、立ち止まった。

「悪い、フレディくんのペースに合わせて走ってる余裕がなかった。もう追ってはきてないみたいだ」

フレディは汗を拭い、荷物から水を取り出して口にに含む。そして、忌々しそうに言葉を発した。

「認めたくないことだけど、どうやら体力面ではかなわないらしい。……あいつらは……いないか。散り散りに逃げたものな」

俺もまたじわりと滲む汗を拭いながら答える。

「あー、呼び止めるのも選択肢のひとつだったけど……ぶっちゃけ、大人数で固まってるのって悪手だと思うし。相方以外とはあまり一緒に行動したくないんだよな」

フレディがお供を引き連れて歩くのが好みなタイプの男なら、この提案は嫌なものかもしれない。そう思って少し申し訳なさそうに言い出してみたのだが、意外にもあっさりと彼は了承の意を示した。

「ああ、その通りだな。僕もその点に関しては同意するんだが、あいつらが勝手についてきたんだ。……こういう機会で撒けて助かったといえば助かった」

意外だ。
俺はてっきり、始業式の様子から、主席にいることで権威を高めているタイプの厄介な人種なのかと思っていた。偏見ってやっぱり良くないな。

そんなふうに考えているのが丸わかりな顔をしていたのだろう、フレディは呆れたように深くため息をついて言った。

「……ノエ=エトワール、きみは僕をなんだと思っていたんだ?権力欲の塊で人を侍らせて左団扇、みたいな想像でもしてたのか?」

うわあ、バレバレじゃないか。
ここまで顔に出やすいと今後やりにくいこともありそうだ。ポーカーフェイスの練習しないと。
俺は頭を掻きながら笑った。

「……俺ってそんなに顔に出やすいのか。いやあ、偏見って良くないな」

フレディは淡々と言う。

「僕が欲しいのは盲目的な信者でも金魚の糞でもないよ。時と場合をわきまえて僕の手足となって働ける有能な部下だ。……ノエ=エトワールは有能なんだろうが部下って感じではないな。いらない」

「はは、そいつは残念だ」
「実に残念だね」

ズバッと「いらない」と言われたことに思わず笑ってしまう。全然残念とは思ってない口調だ。おたがいに。

だが、このゲームで勝つためには要らないとか勝ち負けとか言っている場合ではないわけで。

「……まあ今回ばかりは協力しないわけにもいかないよな?フレディくんは勝ちたいんだろ、このゲーム」

俺がそのように水を向ければ、フレディは抵抗なく頷いて答えた。

「……その通りだな。きみを負かしたいのも認めさせたいのも山々だが、今回ばかりは仕方ない。それに感情を抜きにしてよく考えれば、最良のコンビといえるんじゃないか。学年トップが2人なわけだから」

俺はフレディに右手を差し出し握手を求めながら笑顔で言う。

「俺は部下にはならないけど、背中を預け合う相棒にはなるよ。よろしく、フレディ。……戦闘時に呼びにくいから堅苦しいのはなしにしてよ」

フレディは目を閉じて頷き、俺の手を握った。俺よりも少し小さく、柔らかい手だ。

「……今回だけだからな、ノエ」

此処に、
異色の共闘関係が成立した。




「ああ、そういえばフレディ、さっき『俺に認めさせたい』とか言ってたけど」

「……何か?」

「俺、とっくにフレディのこと認めてはいるよ?」

「……!……お世辞は結構だ」

「お世辞じゃないのに」

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